人払いするなんてよっぽどだ

「……主! 主!」

「はっ!」


どうやら眠っていたようだ。


微妙に痛む頭を押さえながら横からのぞき込んでいるオーシリアに問う。


「どのくらい寝てた?」

「ほんの30分くらいじゃ」


ゲス男が恐らくリオンしかターゲットにしていなかったことと、そのリオンより後ろにいたこと、早めに気づけたのが良かったのか。

それともそもそも長続きしない効果だったのか。


いや、今はそれはどうでもいい。


「早く戻らないと」

「そうじゃな。今は時間が惜しい」


ゲス男がこの時間の間に何をするかわかったもんじゃない。


「しかし、さっきとは打って変わって凄い警備じゃぞ」

「……ほんとにな」


さっきは俺たちを素通りさせてくれるくらいの警備体制だったのだが、今は館の外から中の廊下まで警備兵が巡回している。

変装するような技術はないし、成りすまそうにも肌の色でばれてしまう。


「……さっきのとこにいるはずはないだろう」


俺がぶち破って出てきた2階の窓を見る。

2階建ての窓をぶち破って脱出したのだ。


「恐らく、地下だな」


スルー・アイで地下があることは確認済みだ。

俺が逃げた時に空を移動できることはわかったはず。

という事は簡単に侵入できる1、2階にはいないだろう。


「入口はあっちの方じゃったかの」

「あぁ。しかも、あの辺りは警備が薄い。十中八九当たりだろうな」

「? 警備を固めるのではないのかの?」

「恐らく、警備してる人たちは地下の存在も、そこで何が行われているのかも知らないのだろうよ。知らせないようにしてるんだろうな。そのためには、そこに寄せ付けない方がいい」


そこから導き出される推論。

地下ではこの司法観念がしっかりしていない領地でも褒められたものではない行為が行われているという事。


「とつるぞ」

「正面からかの?」

「横からだよ」


俺が思い描く位置に背中に乗ったオーシリアが足場を置き、地下への穴がある倉庫の横の部屋から侵入する。

倉庫には窓がなく、入れないのだ。


隣の部屋に行くためにドアを開け、廊下へと出るが、もちろん見つかる。

しかし、人払いされているので屋敷の角に当たる倉庫側には人はいない。

よって、進行方向とは逆側をステッド・ファストで塞げばこちらには来れない。

その間に倉庫の中の荷物に隠されていた穴から下へと潜る。


ランガル王国のエルフの脱出用経路のように複雑なつくりにはなっておらず、降りた先の1部屋しかないようだ。


「これは……」


4人とも拘束され、天井から吊るされていた。

足は床についているので腕の方は問題なさそうだが、4人とも服をはぎ取られ、下着姿となっている。


「ご主人様……」


全員意識はあるようだが、俺を見つけての言葉というより、うわ言の方が近いだろう。

リオンは特に体をいじられたような下着の乱れ方だ。


「よう、来ると思ってたぜ。ここまで早いとは思ってなかったがな」


奥に座っていたゲス男と目が合う。


「クズが……!」

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