世の中知らないでいいことも多い

「こうしましょう、ご主人様」

「お、なんだドゥ」

「数人だけ拘束を解き、私たちがいなくなってから他の者を解放させるようにするのです」

「なるほど。リスクも少ないし、いい案だ」


俺は見た感じ非力そうなやつを数人選んで拘束を解く。


「聞いてたよな? 俺たちがいなくなるまではお前らはそこで正座だ」

「……白肌が偉そうに」

「お、やるか? いやー、昨日のあれでも懲りてないとは頭の悪い奴もいたもんだ。よし、お前だけは殴ってからおいて行こう」


普通に口答えしてきたのでこの頃我慢していたこともあり、何とか袋の緒が切れた。

朝で寝起きだからフードを被っておらず、肌の色にいちゃもんつけられたのだ。


「ま、待ってくれ! 俺から謝罪する! だから、やめてやってくれ!」

「いや、普通に考えて本人が謝らないなら何の意味もないだろ」


俺と暗闇の中で言葉を交わしたリーダーらしき奴が声をあげるが、そんなのに付き合う必要はない。

改めて拘束した口答えした奴に近づくと、目の前にリオンが立ちふさがる。


「暴力はダメだよー」

「なら、リオンがどうにかしてくれ。俺、けっこう頭にきてるんだよ」


俺は目立ちたくはないが、それはこういう逃げ隠れする類の者じゃないんだよ。

自然に何の努力もしない結果、静かに生きたいんだ。

今は都合上、こそこそするのはいいし、何なら少し楽しいとすら思っていたが、面と向かって馬鹿にされるとな。


「わかったからー。ほら、メイドちゃんたちー」


くるっと方向転換させられ、放られた先で3人に抱き留められる。


「ねぇ、なんであんなこと言ったのー?」

「……」


見たところ、一番幼い俺をバカにした奴は答えない。

15、6ってところか。

年下かよ。

また腹立ってきた。


「リブレはね? 私達と肌の色とかは違うけど、とっても強いんだよ? 昨日、君たちも何も出来ずに負けたんでしょ?」

「……」

第七界ここに生きてるなら、強さを無視しちゃだめだよ。負けて、悔しかったのはわかるけど、それは肌の色なんかのせいじゃなくて、君たちが弱かったからだよー。悔しいと思うなら、自分の力でそれを超えられるようにならなきゃねー」

「……」


リオンはいつも通りのほんわかした口調でありながら、なんか強い言葉を紡ぐ。

リオンは俺よりずっと大人だ。

いや、年齢からしたらそんな言葉じゃ言い尽くせない感じになるんだけども。

普段がゆるゆるなぶん、こういう時に年の功を思い知らされる。


ん?


この世界の住人って総じて年齢の感覚がおかしいんだよな?

ってことは。


俺は俺を囲んで成り行きを見守っているメイド3人衆を見やる。


「「「?」」」


いや、この疑問は封印しておこう。

余計な火種になりそうだ。

世の中、知らないでいいこともあるんだ。

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