メイドってそうだっけ?

「ご主人様、どういたしますか」

「……姿を消そう。この後のことも考えなきゃだ」


アンがもうヤル気満々で殺気を放っているが、ここで騒動にしても特になることは一つもない。


「気持ちは嬉しいが、ここは引いてくれ。リオンもいいな?」

「弟君が構わないなら、それでいいよー」


いつものぽわぽわした感じに戻ってリオンも同意してくれる。

やっぱリオンはその雰囲気の方がいいよ。



目立たないように路地裏に移動してきたところでトロワが帰って来た。

よくここを見つけられたな。


「宿を取って参りましたが……。なにかございましたか?」


空気を察して何があったか聞くトロワ。

アンから説明を受け、憤怒する。


「まぁ、落ち着け。何か言ったところで好転するようなことでもない。印象ってのはそう簡単に変わらないんだ」


自分と違うものにどんな形であれ関心を持つというのは当然のことだ。

それが悪い感情であったとしても。


「で。この感じだと俺が泊まるのも拒否される可能性がある」


そこで俺は一番背の高いトロワを見る。


「?」



「お客様、6名様でのご予約でしたが、5名様ですか?」

「もう一人は後から来ますので」

「そうでしたか。ではお手続きさせていただきます」


もちろん、俺もいる。

だが、背の高いトロワの影に隠れているのだ。

忘れがちなシェイド・ハイドを使って。


ただ、この魔法は影から出た途端に姿が現れてしまうため、影の主にぴったりとついている必要がある。

つまり、俺は今トロワにほぼ抱きついているような形になっている。

これは必要なことであって、別に他意はないとだけ明記しておく。


「お客様、顔が赤いようですが、お体の調子でも?」

「いえ、気にしないでください。少々発情しているだけですので」

「そ、そうでしたか……」


いやいや、待て待て。

仮にそうだとしても言わんでいいだろ。

正直も考えものだぞ。


……発情?



「入れましたね、ご主人様。流石です」

「まぁな」


影を薄くするなんて最早専売特許である。


「ところで、大丈夫か?」

「大丈夫です。メイドですので」

「……そうか?」

「はい、いざとなったらご主人様を襲いますので」

「その思考が出てきてる時点でアウトだろ」

「いえ、それは常にありますから」

「うん、君はご主人様をなんだと思ってるのかな?」


認識に致命的なずれがある気がする。


「さて、俺が悪目立ちすることが分かった以上、俺が動き回るのは良くない。だが、情報は欲しい。リオンも次に会う奴がどんな奴か知っているわけではないんだろ?」

「見たことくらいはあるんだけどー。精々挨拶をしたくらいかなー」

「そんなわけで、情報が欲しい。どんな些細な情報でもいいから、集めて来てくれ。3人は大人たちを頼む」

「「「かしこまりました」」」


「わたしはー?」

「子どもたちからも聞いてきてくれ。得意だろ?」

「わかったよー」


「ただし。特に3人だが、自分が代償を払えば得られる情報なんざゴミだからな?」


ぎくりとした顔をする3人。

{忠誠}が強すぎるのも困りものだな。


「お前らは、俺のものだ。他の奴らになんざ微塵もくれてやる気はない。いいな?」

「「「はい……!」」」


ほんと、こういう言い回しをわかって言ってる時の自分が一番嫌いだ。

殴りたくなる。

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