悪意は突然にふりかかる

何か理由があって言っているのだったらまだやめさせようがあった。

しかし、特に理由もなく言っているのであれば、やめさせられるような理由もないと言っていい。

もはや諦めていたが、リオンが俺を弟君と呼ばなくなることはなさそうである。


しかし、俺に対する大人たちの視線がエグイ。

そのほとんどが{嫌悪}ならなおさらだ。

理由まではわからないが、俺はどうやら忌み嫌われているらしい。


「うぷっ……」

「「ご主人様!?」」


俺が吐きそうになり、手で口を押えるのを見てアンとドゥが両脇から支えてくれる。


「ご気分が優れないのですか!?」

「座って休憩いたしましょう!」


そのまま介助されながらテラスのあるカフェに座る。

すると、視線はなくなるばかりかより一層数を増し、感情も強くなる。


「ははっ……」


ここまでくると逆に吐きそうとかいう次元を超えて乾いた笑いしか出なくなる。

俺は何もしてないのに、ここまで負の感情を向けられるかね。


「お茶2つ、お持ちいたしました」


ぐったりしているところに店員さんがお茶を持ってくる。


「2つ?」


アンがなんか反応したぞ。


「私は3つ注文したはずですが」

「お言葉ですが、お客様」


愛嬌のある顔の店員さんはこちらをちらりと見ながら言う。


「そちらの方にお出しできるお茶を、当店では扱っておりません」



ここまで言われればわかる。

これは、人種差別だ。

レインが人間から受けていたような。


確かに、俺の肌の色はここの人たちとは大きく異なる。

俺が黄色人種であるのに対し、ここの人たちは褐色の肌をしている。

外見で自分とは違うと判断されるには十分に違う。


あぁ、久しぶりだなこの感覚。

周りは全て敵のような、この感覚。

前はこれが原因で引きこもったんだったか。


こんな扱いを受けながら、折れなかったレインを俺は改めて尊敬する。

よく挫けずに、前向きに生きていたな。

俺は、逃げることしかできなかったよ。



油断していた。

第六界の人、そして第七界で会った今までの人は俺に肌の色で奇異の目を向けることはなかった。

俺も、第六界で獣人種なんか見てから、外見に対する頓着がなさすぎた。

本来なら、俺は姿を隠し、人目につかないようにすべきなのだ。

俺がいるだけで注目を浴び、いらぬ騒動を呼ぶ。

こうなることを予想すべきだった……。


俺が自嘲気味にそう考えていると、目の前に誰かが立ちふさがった。


「弟君には飲ませられないってどういうことかな?」


いつもの天真爛漫な声とは比較にならない怒った声のリオンだった。


「お茶なんて犬とかでも飲めると思うけど?」

「いえ、私は店長に言われてこれを持ってきただけで……」

「あなたも黙認してたよね?」


それもいつもと違い、理論的である。


「あなたも、子どもたちにはそういうことをする人という認識にしか映らないよ。弟君に、この世界に絶望させないであげてよ」


それはこの場だけではない、第七界このせかいを背負うものとしての言葉だった。


ほんと、俺の周りにいる奴はどいつもこいつもなんでこう、カッコいいんだろうなぁ。


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