説明は簡単且つ明瞭に

「慣れてるってどういうことかなー?」

「あ、えっとな。なんかさ、武器の使い方とかを考える機会があったんだよ」


もうそれはそれは考えたとも。


体術の組には人体の急所の説明と、俺のつたない発頸を。

弓矢の組には矢に対する工夫と、斜方投射による偏差打ちを。

それぞれ説明して各々練習に入ってもらう。

こんなもんだろうか。


「いやー、それにしてもびっくりしたよー。弟君にこんなことができるなんてー」

「そうじゃろう? わしの主は凄いのじゃ!」

「これでもまだまだだけどな。だけど、これだけは頼む。リオンは身につけないでくれ」


俺の発頸の真似をするリオンにそれだけは言っておく。

リオンが発頸なんざ覚えたらもうどう手を付けていいのやら。

鬼に金棒ならぬ、鬼に発頸になってしまうところだ。

ちょうど角も生えてるし。


「問題ないよー。お姉ちゃんは難しいこと出来ないからー」


俺が活躍しててにっこにこのリオンは俺を背中から捕まえて頭を撫で始める。

ここ数日で無理に逃げようとすれば余計な被害を生むことを学んだ俺はもはや抵抗せずに撫で繰り回されるままだ。


「でも、本当に凄いねー! メイドさんたちのやる気も漲ってるよー」

「戦闘訓練なんて基本的に上の奴にああしろこうしろ言われるだけだからな。なんにでもそうだけど、理由もなしにこうしろって言われたって身が入りようがない。それが間違っていたら最悪だし、合っていたとしてもそれを感じられなければ間違っているのとほぼ同じだ」


俺は撫でまわされながらも冷静に説明を続ける。


「なら、説明をすればいい。どうしてそれをした方がいいのか、しなければならないのか。その理由を」


結果としてそれが正しいと判断されれば皆の気合も変わるし、間違っていると判断されればやる気なんぞ起きようもなく、なにもされない。

そこで考えるのはこちら側だ。

どうしたら相手に納得してもらえるのかと。


「そもそも『将来に役に立つから』とか言われてもそんなこと知ったことかって話なんだよ。俺の人生でデシリットルやら世界史やらが役に立ったことなんて一度もないね。『人生』なんて適当な言葉で濁すくらいなら中学受験に役立つから、とか高校受験に役立つから、とか目に見える未来のことで置き換えて欲しいもんだ」

「なんか怒ってなーい?」

「そんなことはないぞ」


いかん、少し冷静ではなくなっていたかもしれん。


「まぁ、要するにだ。ちゃんと説明さえすればやる気も上がるし効率も良くなって悪いことなしって寸法だ。教える側がたった一度の手間を惜しまなければな」


その手間を惜しんだ場合、見事に失敗することが多い。

もちろん、そのまま成功してしまった例もあるのだろうが、成功率が低下しているのは明白だ。

大して忙しくもない俺の身で適当な事なんてやってられない。

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