ゲームで目は悪くなりません

「どこまで逃げればいいんだこれ!?」

「そんなのわかんないですよ! 届かないところまでじゃないんですか!?」


そりゃそうだ。

最後尾で必死に逃げる俺とレイン。

幻想級ファンタズマルと言えど攻撃モーションはあるはずなのでしっかり確認できればここまで恐れることはないのだろうが、なにせ確認する暇もない。

無理をして確認しようとすればあの靄に触れてしまうかもしれない。

どんな感じになるのかはわからないが、俺の装備の削れ方からすると、とんでもないのは確定だろう。


「レイン、ジャンプ!」

「はいっ!」


俺たちは背中のオーシリアが後ろを見て状況に応じて作り出すステッド・ファストの階段を駆使しながら逃げる。

どうやら、あの靄は1度とばすと次に飛ばすためには体の近くに戻さなければいけないみたいなので、そこで時間の余裕ができる。


「でも、これ、僕たちが逃げ過ぎたらそれはそれでヤバいですよね」

「そうなんだよ」


仮に、幻想級のヘイトが一番近くの敵に向かうとしよう。

今は俺たちにヘイトが向いていて、まぁ俺が逃亡に一家言あるからどうにかなっているが、逃げている最中に何かの間違いで俺たち以外がタゲられたら避けられない可能性が高い。


つまり、他の人にヘイトが向かない程度のいい塩梅で逃げなければいけない。


無理じゃね?


「あいつのヘイトって今だれにいってんだ?」

「僕なんじゃないですか? さっきまで散々やっちゃってましたからふぇ!?」


レインの最後の追ってきた黒い靄を避けるために俺が引っ張った結果だ。

確かに、俺というよりかはレインを標的にしている気がする。

なら、一番近い敵ではなく、一番ダメージを稼いだやつか?

流石に離れ過ぎたら他の奴にシフトするだろうけど。


「オーシリア、上がるぞ!」

「うむ!」


足場を階段にし、更に幻想級から離れる。


「なぜわざわざ?」

「斜めに離れていくのが一番早いんだよ。ほっ」


四角形の中での対角線の話だな。

それぞれの辺より対角線が最も長くなる。

横方向への移動距離は同じでも対象との距離は少し違ってくる。


まぁ、そんなの気休めに過ぎないわけで。


「本命はちゃんと観察するためだ」

「最初からそう言えばいいじゃないですか」


いや、なんかな。

聞かれるとちょっと違うこと答えたくなることない?


「はぁ……。オーシリアちゃん、案内よろしくお願いします」

「うむ。主、そこら中に足場を作っとくので良いのじゃな?」

「あぁ。あとはレインを逃がすことに集中してくれ」


レインにヘイトが向いているならこの機会を利用するしかない。

単純なダメージ計算ならマレイユさんかルーリアの方が高そうだが、レインに向いているという事は直接的に攻撃したことに意味があるのだろうか。



まぁ、いいや。

慣れてきているとはいえ、高所が怖いレインをいつまでも空で飛び跳ねさせとくわけにもいかないし。


俺は幻想級に目を凝らす。

先ほどより2倍近く離れているのでかなり姿は小さくなっているが、問題ない。

ゲーム漬けでも失われなかった視力をここで活かす時。

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