兎は想像の数倍速い
「おら、かかってこいやー!」
「ふっ!」
俺たちがさがっていくと、後ろで戦っていた集団でも特にケインとエルメの声が大きく聞こえる。
頭から右目の横にかけて一筋の血を流しながら誰かから借りたであろう斧を振り回しているケイン。
血を流していたり、傷を負っている様子はないものの、髪や衣服は大きく乱れている扇を振るうエルメ。
この2人はやっぱり負担が大きいから消耗も激しそうだ。
まだいけそうではあるが、燃え尽きられても困る。
「族長さんたち! 人間の方をカバーしてくれ!」
獣人族は1人1人の戦闘力が高いため、あまり心配をする必要はない。
よって
「おい、リブレ! 俺たちはまだいけるぞ!」
「わかってるけどお前らに今倒れられたら困るんだよ! 黙って助けられとけ!」
不平を言うケインは相手にしない。
だってあいつ絶対自分の相手が減るとかそういうことに対して文句言ってるんだもん。
まともに相手してたまるか。
「リブレさん!!」
レインが詠唱を止めてまで俺の名を叫ぶ。
何を考える暇もなく、反射的に幻想級との間にステッド・ファストを10重に発動。
振り返るのも間に合っていないが、レインの頭を抱えて抱き、下にして地面に伏せる。
ゴフッ! という何とも言えない風の音が自分の上を通り過ぎていく音が聞こえ、通り過ぎた感覚からレインを押さえたまま頭をあげる。
まぁ、予想通り例の黒い靄が俺たちの上を通り過ぎた勢いのまま幻想級のところに戻っていくところだった。
「キラ! 急いで王様に通達! 全部隊退かせろ!」
「了解!」
今の奴を難なく避けていたと思われるキラは俺の声に反応して速攻で姿を消す。
「全員! 幻想級から距離をとれ! 目安は今までの3倍! 周りのエネミーは追ってくる奴だけ処理しろ!」
続いて周りの皆への指示。
3倍というのは言った通り目安にしか過ぎないが、2倍では心許ない。
なぜなら、今しがた
俺とレインはまず間違いなく今までの効果範囲外にいた。
だからこそ、俺も目を離していたし、レインも今まで通りに戦っていた。
それが、俺は直接見ていなかったが、レインはこっちにあの靄が突撃してくる瞬間を見たのだ。
はっ!
ふと体が軽いなという感覚に襲われ、自分の背中を見てみるとレインを奪還しに行く時からお世話になっていた軽鎧がお釈迦になっていた。
具体的に言えば、布1枚を残してごっそり削れていた。
あっぶな!?
「ふんっ!」
また寒気を感じてレインを抱いたまま横に転がる。
俺たちがさっきまでいたところを黒い靄が通り過ぎていく。
うん、ヤバい。
「逃げるぞ!」
「はい!」
一瞬で意見が一致。
脱兎の如くとはこのことだ。
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