手打ちはハグで

「うん、ここらでいいかな」


エルフの町一歩手前で俺は足を止める。


「なにがあったか聞かれたら、本当のこと話していいから。ただ、助けてくれたのも人間だってことだけ言っといてくれ」

「……リブレ……、さんが助けてくれたってことは言わないでいいんですか?」


やっと敬称ついたか。


「俺の名前が出るとそれだけでまた悪い印象を与えるかもだろ?」


なんせ、エルフの敵だし。


「人間にも、いい奴はいるんだって知ってもらうとこからだ」


かなり長い道のりだが。


「一応、ここからエルフの町に入るまでは見てるから。もし、またあいつらが来たら俺たちが相手をするよ」


そしてエルフから逃げる。



「……ありがとう、ございました!」

「おぉ!?」


3人揃って羽織っている布を放り出して抱きついてきた。

いや、これはまずい!

チラッとレインの方を見ると、笑顔ながら後ろに般若の像が立っている。


「本当は、心細かったんです! もうダメかとも思いました! 本当は助けてもらって、嬉しかったです!」


涙ながらにそんなことを言ってくれるが、ね?

レインの視線が痛い!

おまけにプリンセの視線も痛い!

世間的にも下着姿の幼女に囲まれているという状況は極めてまずい!


「リブレさんのこと、誤解してました! 本当にありがとうございましたー!」


言うだけ言って、また布を羽織って町へと走っていった。



とりあえず、3人が無事に町に入ったのを見届け、強烈な感情が視える方へと振り向く。


「リブレさん、あれはダメですよー?」

「……ん、ダメだね」

「いや、言われると思ったけどさ! あれは不可抗力じゃないかな!?」

「リブレさんなら避けれましたよね?」

「あれ避けるのも可哀想じゃない!?」

「……でも、ダメ」


結託した2人に路地の角に追い詰められる俺。

普通こういうのって男女逆だよね!


「しょうがなかったというのもわかりますから、これで手打ちにしましょう」


そう言ってレインは両手を広げる。


「えっと?」

「ハグです」


言ったそばから真っ赤になるならやめればいいのに……。


「こうか?」

「だめです。もっとです」


言われるがまま、かなり強くレインを抱き締める。

なんか、うん。

幸福感はあるけど、めちゃくちゃ恥ずかしいな、これ。

いや、俺としても嬉しいんだけどな?

こういうのは。


レインは上から見てもわかるくらい耳まで真っ赤だし。

{満足}はしてるようだからいいけども。


「よし、こんなところでしょうか!」


レインはパッと離れると、自分の顔を手であおぐ。

暑いんだろうな。


「……ん」


プリンセもこっちに両手を広げている。

えっと……?


レインを見ると、しょうがないという顔をしているので、レイン同様にプリンセも抱き締める。


背中の方で尻尾がふるりふるりと揺れる。

満足して頂けたようだ。



「これからどうするんです? 訓練ですか?」

「うーん、少なくとも俺は謁見の間に行かなくちゃかなぁ」


商人たちのリーダーの尋問があるだろうし。

俺以上の適任者なんかそうはいないし。

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