普段怒らない人が怒ると怖い

時は夕暮れ。

俺とキラによる一騎打ちの鬼ごっこが今まさに開始されようとしていた。


「今日の間だけでドルガバまで行って戦って帰ってきてキラと鬼ごっこか……。そろそろ過労で死ぬな……」

「その前にキラに殺されるかも知らんぞ、主」


それだけは言うな……。



「じゃあ、始めようか。1分だけでいいんだよね」

「あぁ。あのおっさんのお願いは俺が理不尽キラにどう対応しようとするかが見たいってことなんだろ。ならあんまり時間をあけてもな」

「了解。始めるよ。いーち、にー、さーん……」


キラによるカウントが始まると同時に俺はバインドを30重に発動。

欲を言えば、これでも全く足りないのだが、これ以上はやっても変わらんだろう、もはや。


しっかり巻き付いたのを確認すると、踵を返し、脱兎のごとく逃げる。


「で、あれが破られた後はどうするのじゃ」


横を並走するオーシリアが聞いてくる。

ほんと、なんでこいつ足だけは速いんだろう。


「あいつにはステッド・ファストをも効き目が薄いしな。もちろん使うからお前を連れてきたわけだが、どっちかと言えば路地を使って逃げ回ることになると思う」


キラの最高速度は常に持続できるわけではなく、直線的な速さのような気がする。

角を曲がりつつ、その角全てにチェーン・バインドを出して塩水をかけておく。


「そんなことをしておっては大した距離離れられんのじゃが?」

「あいつ相手に距離なんかないようなもんだろ」


それなら細工した方がましだ。



「しかし、これではいつキラが来るのか全く分からんのう」

「そこはあれだ。そろそろ合図があると思うぞ」


ドオォォォン!!


「あれだ」

「なるほどじゃな」


実はバインドに拘束用のチェーン・バインドだけでなく、着火用のリヴィ・バインドも混ぜておいたのだ。

何の着火用か。

もちろん、爆弾だ。

ドルガバの時に使用した黒色火薬を固めた爆弾をもしもの時のために持ち歩いていたのだ。


キラの膂力は相当のものではあるけど、ケインほどではない。

ということはあの拘束からの脱出には十中八九雷を使う。

ツタであるリヴィ・バインドを燃え伝って爆弾へ火を点けたのだ。


「もしもの時って、どういう時を想定しておるのじゃ」

「こう断言しよう。今みたいな時だよ!」


その間にも俺たちは仕掛けを進め、徐々に大通りの方に戻る。

先に俺たちを見つけてもらわないとだからな。


俺が用意していた物があと3つで全部仕掛け終えそうって時に俺はゾッとする。


「オーシリア!!」

「っ!!」


咄嗟に反応してステッド・ファストを斜めに出して受け流したものの、恐ろしい速さの物体が横を通り過ぎて行った。

全く容赦がなかった。

家のがれきの中からキラが姿を現す。

がれきによる汚れとは別に所々焦げてる。

怪我はないみたいだけど。



「もしかして……怒ってる?」

「いやいや、妨害は自由って言ったのは僕だしね?」


そこでキラは一拍置く。


「ただ、服を汚されたのはちょっと気に食わないかな」

「そういうのを怒ってるって言うんだと思うぞ?」


あれを汚れだけで済んでるのもおかしいけど。

1つだけ言えることがある。

俺死んだわ。

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