井の中のエルフ

キラに挑んだ人数と挑まなかった人数は後者の方が多かったので、エルフ達の撤退は速やかだった。

二人がかりで運ばれていく長の息子の腕が本来曲がらない方向に曲がっていたような気もするが、まぁ気のせいだろう。

最悪、魔法でなんとかしていただきたい。

というかもはや治さないでいい気もする。

治ったらまた来るとか言い出すだろうし。

実行に移せるかは別として。


キラの圧倒的実力を見せつけられた地上のエルフ達は抵抗する気力が失われたというような感じだったが、俺によって地下に閉じ込められていたエルフ達は精神的に参ってしまったようだった。

「一生出れないかと思った……」などと空を見上げながら涙を流している。

地上の様子もわからず、連絡もつかず、地下に閉じ込められたともなればそうなるか。

まぁ、こんだけなってればまた挑もうとかいうことにはならないだろう。


「こんなものでいいかな?」

「そうだな。長自身がこれを率いてないのは多分王様のところに行ってるからだろうし、妥当なとこだろ。それにしても精鋭を連れてきたとか言ってた割に大したことなかったな?」

「そりゃそうですよ」


レインが俺の疑問に答える。


「エルフの中で優れてると言っても、それは自分たちの自然ナワバリを襲おうとするエネミーに対してってだけですからね。しかも絶対安全なところから長々と呪文を言って当てるだけです。誰にでもできますよ。そんな実力でリブレさんやキラさんに挑むとか、命を捨ててるようなものです」


レインを見る限り、なるほど、レベルによるHP、MPの上がり幅からエルフは人間より上位の種族と言って差し支えないだろう。

だが、そもそもレベルが上がっていないなら話は別だ。

才能に恵まれ、訓練を受けたキラは言うまでもなく、無駄に場数を踏んでいる俺にも敵うはずがないだろう。

なんせ俺も今やレベル46だからな!


「レイン、ちなみにレベルは?」

「それが上がりにくくなっちゃってて、48なんですよ」

「っしゃあ!」


渾身のガッツポーズ。

実際にはレインは俺の96レべくらいだとしても前までは単純なレベル差だけでダブルスコアだったからな。

大いに成長したものだ。



「じゃあ、リブレ君。僕は一旦城に戻るよ。またすぐに襲ってくるようなことはないだろうしね」

「そうだな。あるとしても精々数人の暴走だろ。それなら俺だけでもなんとかなりそうだ。レインもプリンセもいるしな。あまりにも多そうだったら耐えてるから誰か来てくれ」

「了解。あとのことはお願い」


そう言ってキラは姿を消す。

キラはそもそも国の人間だからな。

俺に協力的すぎるきらいがあるけど、裏の感情も視えないし、本当にいい奴なのだろう。



「リブレさん、あとのことってなんですか?」

「あぁ、それは中で話そう。そろそろ日も暮れてきたしな」


中に入り、俺とレインはダイニングで向かい合わせに座る。

キッチンからはプリンセが鼻歌を歌いながら料理をしているのが聞こえる。

すっかり家事にはまったらしく、進んでしてくれるのだ。

しかも成長も早い。


「で、なんですか?」

「あぁ。聞きたいのはこれからについてだ」


俺はいきなり核心を切り出す。




「レイン、お前はエルフを守りたいか?」

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