王の器
「貴様、我が息子を……!」
「息子さんのしつけはしっかりした方が良いのではないですかな、長殿」
息子をやられた長は怒るが、俺としては一発で落としてあげたんだからむしろ感謝して欲しいくらいだ。
怒りは収まっていないが、それよりも優先すべきことがある。
「レイン、侵入者を片付けなさい!」
「……わかりました」
多少間があったもののレインは命令に従う。
そして命令をした長は後ろに下がってしまう。
ありがたい。
「オーシリア、とりあえずは耐えだ」
「了解じゃ」
オーシリアは杖から人へと姿を変えるとすぐにステッド・ファストを発動し始める。
俺はとりあえず受け身に回ることを選択したが、これは決して消極的なものではない。
そもそもレインの魔法の中で俺が攻撃できる手段などないのだ。
飛び道具でもない限り。
そして俺にはそんな武器は持てない。
小太刀が例外なだけだ。
前回は本当にどうしようもなかったので生き延びるために耐えていたが、今回は頼もしい仲間がいる。
彼らがこっちに来るまで耐えれば攻撃手段が生まれる。
一番早いキラが来るまであと30秒ってとこか。
それぞれの周りにいる敵の数から俺はそう判断する。
もちろんその中でも俺を攻撃しようとするやつはいるのだが、そうやって俺に意識が向いた瞬間誰かがそいつを倒している。
一瞬の気の緩みも
つくづく白兵戦では無敵だな。
「いいことを教えてあげよう。俺が一番危惧していたのはあんたが前に出て戦い、それをレインがサポートするパターンだ」
長ともなればそれなりの実力だろうし、レインが後衛なら俺が小太刀を当てるのが難しくなる。
しかし、そうはしなかった。
レインの方が勝てると判断してのものだろう。
それは
しかし、これはそういったものではない。
結果的に長は保身を考えてレインを前に出してしまったのだろう。
「そういうとこなんだよな。自分が助かるためには他を犠牲にしてもいいだろっていう考え。気に入らん」
「しかし、我々の町を守るためには仕方がないではないか!」
魔法の向こう側から長も叫び返してくる。
今はオーシリアが全力で防御しているため、俺はさほど負担がない。
よって会話する余裕がある。
「最優先が町なのがおかしいって言ってんだよ! 昔からここに住んでた? 知るかそんなもん! 伝統を守るのは大切だが、1番は命だろ!」
「しかし……!」
「全員で逃げりゃ良かったんだよ! 王様もそこの判断は迅速だった!」
なによりも国民のことを思っているが故の避難。
国とは国土でなく、人のことを指すという考え方。
どっかの漫画でこんなこと言ってる王様いたな?
「お前には一種族を背負う器はなかったんだよ!」
「お待たせ。調子はどうだい?」
「おう。見ての通り、防御一辺倒。ちょっと俺の見立てより時間がかかったな?」
「しょうがないよ。丁寧に寝かせてきたから」
そう。今回の突入に当たってのマレイユさんからの指示は1つだけ。
「丁寧に相手して差し上げろ」とのこと。
よって魔法を連発するようなこともなく、後遺症の残らないような形で倒してきたのだ。
俺が倒した長の息子も多分脳震盪を起こしただけなので大丈夫だろう。
多分。
「よし、レインを取り返すぞ」
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