多対一には無理がある

「ふふ、取り返す、ですか? レインはあなたのものではないでしょう!?」

「少なくともお前のものでもねぇよ、このすっとこどっこい!」


初めて日常会話ですっとこどっこいという言葉を使ったかもしれんな。

この状況が日常かと言われれば疑問符しかないが。


「では、取り返す、という言葉はどうしてでてきたのですか?」

「俺が、あいつの、パーティーメンバーだからだよ!」


ちなみに語尾が荒いのはレインの魔法を縫って近づこうとしているからである。

少し進んでは跳びのいての繰り返しで力が入りっぱなしである。

発する言葉にも力が入って荒くなるというものだ。


「ほう? しかし、その程度の縁であれば私たちの方が同種族といった点で縁が深いのではありませんか?」

「生贄にしようと、している奴が、縁とかどうとか言うか!?」


こいつは、第一印象は慎重な長って感じだったが、徐々に自棄になってきているのか?

感情がダダ洩れだぞ。

具体的には俺への{怨恨}が強い。

そんなに恨まれるようなことしたかなぁ。


「いや、主。こう言ってはなんじゃが、わしらは長の館を襲っているのじゃぞ。更に主は長の息子をワンパンじゃ。これで怒らぬというほうがおかしいじゃろ」

「いや、それはそうなんだけどさ……」


なんというかそれ以上の何かを感じるというか……。



「君たちそろそろ集中しないかい?」

「あ、悪い、キラ」


俺とオーシリアが防御したり避けたりしながらちょこちょこ進んでいる間、キラに攻撃を任せてレインの意識をそっちに少しづつ割いてもらっている。

それもレイン相手なので加減しているのでその精神的な消耗は激しい。

かたやこっちは今までよりキラに意識が割かれるので対処は楽になっている。


しかし、それでもレインの魔法の弾幕は厚い。

部屋の端から端への横断でさえままならない。


「そういう時は人を頼りなさい」

「はっはっは! 今回ばかりはエルメに賛成だな! 一人ではできんことも複数人であれば、不思議と出来るようになるものよ!」

「いや人数増えたら手数が増えるんだから上手くいきやすくなるのは普通だろ」

「む? はっはっは! そう細かいことを気にするでない!」


細かいかなぁ?

なにはともあれ、エルメとケインが合流してくれたのはありがたい。

少し周りを見ると、衛兵はしっかりと地に伏せており、メイドさんたちはドアの奥からこちらを伺うだけだ。

敵う相手ではないと判断したらしい。

俺としてもエルフメイドを傷つけるのは誠に遺憾なのでそのまま隠れていて頂きたい。


「く……!」


流石のレインも捌ききれなくなってきて俺への攻撃が緩む。



「ゴー!」


俺はレインへ突撃を開始。


「行かせるか……」

「ごめん邪魔!」


俺の掌底では完全には意識を奪われなかったらしい長の息子が俺の足に手を伸ばすが、頭を蹴ったら崩れ落ちた。

かなーり危ない角度の蹴りが入ったけど、しょうがないよね!

目の前に出てくるのが悪い!


遂に目の前までたどり着いた俺はレインが短剣を抜く前に小太刀の裏をレインの手にあてる。

どうだ……?

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