退任は明確に

「む、君はどこかで会ったかな?」


なんと王様と会っていたのはエルフの長だった。


「えぇ、ルーリア様の付き添いとしてお伺いさせていただきました」

「ほう、道理で見たことがあるわけだね」


どうやらその時の印象が強く、俺がレインと戦っていた相手とは思っていないらしい。

感情を偽っている様子もないし。


「今、エルフの町に侵入していた賊の話をしていたんじゃが、何か知ってることはあるかの?」

「いや、知らないな。そのような事が?」

「そうらしいのじゃ。そこで犯人を捜しているとのことじゃ」

「そうか。残念ながら知らないな。申し訳ない。お取込み中らしいからまた後で来るよ」


踵を返し、ドアから出ていく。

即座にスルー・アイを発動し、中の様子を伺う。

特にこちらに視線を向けることもなく、そのまま会話が続けられているようだ。

感情の変化も特には見受けられない。

王様に対する{警戒}が常に浮かんでいるようだが、それもしょうがないだろう。

ああ見えても屈指の実力者だからな。

警戒も当然だろう。


さっきは王様がよく俺に話を振ってくれたな。

あそこで聞かなかったら逆に不自然だし、先に会っていたことを印象付けられたからどこかで見たことがあるのがレインと戦闘してた奴だと連想しにくくなった。

確実というわけではないが、当分はこちらに疑いは向かないだろう。



「さて、どうするか」


すぐに戻ってもまた鉢合わせするだけだろうしな。


「久しぶりにあそこに行ってみるか」


俺は軍事対策室に足を向ける。


「お」

「「リブレ殿!」」


見覚えのある双子がそこにはいた。


「タンドルとチンドルか。元気にしてた?」

「「それはもちろんです」」


えっと、どっちがどっちだったっけ?

ま、いいか。


「なにしてるんだ?」

「「迎撃の準備になります」」


一緒に話すから分ける意味ないし。


見れば二人は地図を広げており、矢印が国に向かって伸びている。


「もしかしなくてもこれが幻想級ファンタズマルの予測進路か?」

「「その通りです。流石に理解がお早い」」


ふーん。


「で、なんだその口調」

「いえ、私たちはリブレ殿を侮った挙句敗北した身ですので」

「この程度の礼儀はあってしかるべきだと思いますが」

「敬語使われるのって落ち着かないんだよな……」


しかも二人は俺より年上なわけだろ?

いくら前に勝ってるからといって年も上だし、役職的にも上の人に敬語を使われるというのはなんとも居心地が悪い。


「というわけで敬語をやめてはいただけないでしょうか」

「そういうことならやめるけど……」

「1つだけ訂正させてもらってもいいかな」


え。

今なんか変なこと言ってたかな。

まさか年下!?


「リブレ君は我が国の軍事参謀ではないか」

「それまだ生きてたの!?」


あれだろ?

ドルガバとの戦争の時にマレイユさんから言われたやつだろ?

もう戦争はとっくに終わってるんだから時効だろ。


「いや、マレイユ様から解任などと言われてないだろう?」

「それはつまり、未だにその任を負ってるということだよ」


……初耳。

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