世の中には色んな炎があるようで

「あなたがこの前までいた洞窟にもかがり火があったでしょう? あれも私が頼まれて用意したものよ」


少し自慢げにエルメが話す。

確かにどれだけ放っておいても火が消えないから最後の方は適当に扱っていたな。

それでも消えないから気にはなってたんだ。

二つ名ダブルを持つエルメが出したって言うなら納得がいく。


「あの炎には長く残るようなイメージを持たせておいたのよ。ほら、ダンジョンの途中で火が消えて真っ暗な中に放り込まれるとか考えるだけで嫌じゃない? そういうのを回避したかったのよ。役に立ったでしょう?」

「あぁ、あれにはだいぶお世話になったよ」


明かりとしてだけではなくゾンビを燃やすのにも一役買ってもらったからな。



「で、どういう明かりがお望みなの?」

「そうだな……。欲を言えばあんまり明るくないのがいい。夜に動くからな。俺たちが周りが見えなければいけないのと同時に、周りからばれるのは避けたい」


自分でも無茶苦茶言ってるのはわかっているが、最大限要望を言うとこんなもんだ。


「わかったわ。じゃあ、どうしようかな……」

「できるの!?」

「もちろんよ。私を誰だと思っているの?」

「【炎の巫女】、エルメ様です」

「わかっているならいいのよ」


かっけぇ……。



「じゃあ、こんなのはどうかしら」


少し考えた後にエルメが提案をする。


「持ってる本人にしか見えない炎なんてどう?」

「そんなこともできるのか!?」

「もちろんよ。まぁ、攻撃能力は皆無になるけどね」

「十分すぎる。それで頼むわ」


エルメに松明に炎を点けてもらう。

点けてもらった時にはエルメが持っていたのでわからなかったが、俺に持たせてもらうと火が燃えているのが確認できた。周りが照らされているのもわかる。


「でも、周りから見ると俺はただ木の棒を持ってるやつなんだろ?」

「私以外から見ればね。私は流石に見えるからさ。どうだい、キラ?」

「えぇ、炎は見えませんね。流石です」

「でしょ?」


ほんとにこれはすごい。


「キラもこれ貰っといた方がいいんじゃないのか?」

「いや、僕は遠慮しておくよ」

「なんで?」


こんなに便利なのに。


「なくても見えるからね」

完璧超人ばけものめ……」


なにかこいつにできないことはないのか!?



「潜入は明日の夜なのじゃろう? 今日は早く帰ってゆっくり休むとよい。わしらもここで解散としよう」

「そうしてもらうと助かるよ」


ダンジョン暮らしで生活リズムなどどこかへ消え去ってしまったとはいえ、本来寝るべき夜に活動しなくてはならないのだ。

途中で眠くなってしまっても困るし、調整はしておいた方がいいだろう。



「では、これでこの場は解散とする。各々、自らの仕事へ戻るように」


王様の宣言で全員バラバラに動き出す。


「じゃあ、俺たちも帰るか」

「わかった」

「了解じゃ」


俺は謁見の間を出て後ろをてこてこついてくる二人と共に階段を降りていく。


「あ、そういえば、どうやって家まで戻ろう……」


相当な騒ぎを起こしてここまで来たんだった。

また空から、今度は家まで直接帰った方がいいのか……?


「待ちなさい! いえ、待って、ください……」


そんなことを階段の踊り場で考えていると、追い付いてきたエイグから呼び止められた。

今度はなんだ……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る