きっかけって大事だよね

「今度はなんだよ……?」


あ、やべ、口に出た。


「何よ! 私から声をかけてあげてるのに! ……いえ、ごめんなさい、そうじゃないの……」

「いや、今のは俺が悪い」


ただ、ちょっと心の声が漏れちゃっただけで。


「主、今失礼なこと考えておらんかったかの?」


俺の表情から大体どんなことを考えていたのか察したオーシリアがそんなことを言ってくる。

余計なことを言わんでよろしい。



「いえ、呼び止めたのはさっきのことを謝りたかったからなの」

「さっきのこと?」


俺が怒ってしまったやつの話か?


「後から冷静になって考えて、あの時の私はあまりにも無茶を言っていたわ。あなたにも、失礼な態度をとってしまった。個人としても、軍属の兵士としても、軽率な行動でした。正式に謝罪させてください」

「いや、あれはさっきも言ったけど俺も悪かったって」

「いいえ、それは私の発言のあとのあなたの発言についてだわ。私があんなことを言わなければあんなことになることもなかった」


確かにそこを言われると……。



「私事になるのだけど、二つ名ダブルの候補生としては最古参なのよ」

「あぁ、らしいな」


いつもと違って様子がずいぶんしおらしいエイグ。


「なのにいっこうに二つ名をいただける気配もなく、どこから現れたかもわからないあなたはすんなり二つ名をいただいてしまったわ。どうしたらいいのかわからなくなって、がむしゃらになってしまっていたの」

「そうだな」


がむしゃらになにかをするっていうのは別に悪いことではない。

だが、方向性が決まっていなければその努力は徒労に終わってしまう。

何かを目標にして、具体的にどうしていけばいいのかがわかっていなければ努力としての質は落ちてしまう。


エイグの場合は二つ名を貰いたいという目標はあってもそのためにすべきことがわからず、見当違いの方向に進んでしまっていたのだろう。

二つ名というのは強さだけで判断されるものではなく、その基準が曖昧だから、余計に迷走しやすいのだろう。



「気に食わないだろうけど、アドバイスさせてもらってもいいか?」


俺は意気消沈しているエイグがいたたまれなくなってアドバイスを申し出る。


「なんのよ?」

「二つ名を貰う人についてだ」


前々から二つ名を貰う人の条件については考えてたんだ。

いくらなんでもある程度指標がないとわかんなくなるだろと思ってたからな。


「キラ様にお聞きしても答えられなかった問いがあなたになら答えられると?」

「あくまで俺の推論になるけどな。他の人にこれを聞いてもらってどう思うかも知っときたいし。別に俺の意見なんかいらないと言うなら、それでも構わない」

「……わかったわ。お願いします。私もそろそろ何か変えなくてはと思っていたの。それが今日だっただけの話よ」

「了解。じゃ、話そうか」


そうして俺は二つ名を持つ条件の見解について話し始めた。

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