愛の力は偉大だよね

「そんなに霧が大切なんですか?」

「あぁ、霧じゃなくてもいいんだけど、とりあえず向こうにこれは迂闊に踏み込んではいけないなと思わせたい。いくらなんでも今から迎撃の準備を全て整えるのは無理がある。俺の策が失敗したときの保険も欲しい」


本音はそこじゃないが、今言うと反対されそうだしな……。


「なるほどー」


普段は俺を疑ってかかるレインも今回は素直に納得してくれたようだ。

キラが「一体なにを考えてるのかな?」って笑顔で問いかけてきてるのが怖い。



「あの、多少繊細なコントロールが必要とはなりますが、わたくしたちのMPをレインさんに渡すことは可能ですよ?」


少しなにかを考えていたお后様マレイユさんが口を開く。


「お、おい! それは……」


王様が慌てたように制止するが……、


「あなたは黙っていてください」

「はい……」


……。

哀れか。



「わたくしたち王族はMPの総量が並外れているという特徴があります。わたくしは王に嫁いできた身ではありますが、婚姻の際に大幅にMPが上昇しました」


なんだそのシステム。

「そして、先々代でしたか? このありあまるMPをどうにか有効活用できないかと考え、自らのMPを相手に分け与えることのできる秘術を編み出したのです」


それはすごいな。

能力があってもMPが足りないやつってのはいっぱいいるだろうからな。


「しかし、これは本来王家の者以外には言ってはいけないことなのです」

「なぜです? そんなことができるならこの国は安泰じゃないですか!」


わかってないレインがテンションあげめで質問する。

大規模な魔法使えるかもとか思ってテンションあがってやがるなこいつ。



「レイン、お前は裏を考えなさすぎだ」

「どういう意味です?」

「もし、このことが公に知られたとしよう。善良な国民はありがたいだろうさ。自国の安全性が高いってことだからな。だが、悪党にしてみれば王族の誰か一人を使役することが出来た時点であり得ない規模の魔法を行使することができるようになる」


あまりに危険だ。

「でも、そのためにキラさんたちが王様たちを守ってるんでしょう?」

「それはそうだ。だが、キラにだって絶対はない。相手は誰か一人でもいいのに対し、守るのは全員だ。こういうのは圧倒的に守る側が不利なようにできてるんだよ」


大抵のゲームでも防衛戦が不利なようになっている。

だから、ボードゲームは先手有利になりやすい。

先に攻めることが出来るからだ。



「そうですね……」


レインも理解してくれたらしい。


「まぁ、そんなわけなのですが、わたくしの裁量でここにいる者たちは信用に値すると判断いたしました。どこかの王様は考えに浮かんではいても、決断ができないご様子でしたから」


なるほど。

さっきからの王様の{葛藤}はそういうことだったのか。


「でも、マレイユさん。俺ならともかく、なんで王様が迷っているってわかったんだ?」

「おかしなことを聞きますね」


ここで俺はマレイユさんの笑顔を初めて見ることになった。


「わたくしは彼の妻ですよ? 夫の考えてることぐらいわからないようでは王の妻など務まるものですか」


かっけぇ……。

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