第43話

 朝の光を感じて、彰夫が穏やかに眼を覚ました。


「彰夫さん、おはよう」


 ベッドのそばで、好美が彰夫の身体から抜いた体温計を見つめていた。


「もう熱は下がったみたいですよ」


 好美は枕元に持ってきたオレンジジュースにストローを指し、彰夫の口元にそえた。彰夫は好美の心遣いが嬉しかった。テルミが何時に帰って来たか知らないが、その後好美が熱心に看護してくれたのだろう。


「でも、少し熱が下がったからって外をうろついちゃだめですよ」


 彰夫は好美が言っている意味がわからなかった。


「それにしても、たくさん買って来たんですね」


 彰夫が見ると、枕元のデスクにミネラルウォーターのペットボトルが並んでいた。好美はキャップが開いているボトルを指差しながら言った。


「病人のうちは、出来ればボトルから直接飲まないで、ちゃんとコップに移して飲んだ方が良いですよ。ああ、それからゆうべ着替えたパジャマと下着は、洗濯しておきました。汗でぐっしょりの服をソファに放っておいたら、カビが生えちゃいますから気をつけてね。…あら、やだ。わたしお母さんみたいなこと言ってますね。ごめんなさい」


 自分の言ったことに、自分で笑いながらキッチンに戻る好美。確かに彼女はよくしゃべるようなった。


 その後ろ姿を見ながら、彰夫は自分に水を飲ませ、汗でぬれたパジャマを着換えさせたのは、いったい誰だったんだろうと考えた。

 よくしゃべる好美と自分のために水を買ってきたテルミ。彰夫は自分にとってのふたりの印象が、変わりつつあることを感じていた。

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