第31話

 朝、彰夫が目を覚ますと、ベッドに好美は居なかった。


 時計を見ると、すこし寝坊したようだが、ゆうべの至福の時を考えると慌てて家を出る気にはなれない。部屋を出ると、好美がキッチンで朝食を作っている。コーヒーが、いい香りで彰夫を迎えてくれた。

 彰夫は好美の顔を見るのがちょっと照れ臭かった。


「おはようごさいます」


 そう言いながら、笑顔の好美が、コーヒーカップを手渡してくれた。受

 け取る時に、好美の手が彰夫の手に触れた。彼女の肌の柔らかさと温かさが、昨夜のふたりを思い起こさせてくれた。彰夫は今夜から寝室はひとつでもいいかもしれないと、ひとりでニヤケながら考えていた。


「ゆうべはリビングで、遅くまで宅建試験のお勉強していたんですね」


 グレーの瞳を朝日に輝かせながら好美が言った。


「わたし先に寝てしまって、ごめんなさい」


 彰夫はその言葉に呆然として、返事を返すことができなかった。

 好美は何事もなかったように、キッチンで朝食を準備している。好美にとっては昨日と変わらぬ朝なのか…。


 そう言えば、ゆうべは部屋が暗くてベッドに入ってきた好美の眼の色をチェックできなかった。


『やりやがったな、テルミのやつ…』


 あんなに上手く好美を真似るなんて…。結局テルミは好美のすべてを知っているということなのだろうか。

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