第26話
彰夫が自宅でメモと心理学書を見比べながら、好美の絵の解釈に奮闘していると、携帯が鳴った。
着信表示を見て警戒する。好美なのか、テルミなのか。
「もしもし…」
返事が無かった。もう一度呼びかけて、返事を待った。返事が無い代わりに、激しい息遣いと嘔吐で喉が鳴る音がする。
彰夫は電話を切ると、自宅を飛び出して入った。
松風マンションの彼女の部屋には鍵が掛ってなかった。
部屋に飛び込んでみると、汚物にまみれて、彼女が床の上をのたうちまわっている。好美なのか、テルミなのか。彰夫は彼女の肩に腕をまわして半身を起した。
息も絶え絶えに彼女が彰夫に訴えてきた。
「胃が、死にそうに痛い…」
瞳が黒かった。テルミだ。
「テルミ、何があったんだ?」
テルミは身もだえするだけで答えない。
あたりを見回すと、空の日本酒の一升瓶が転がっていた。急性アルコール中毒? 今は嘔吐を伴う泥酔期で、このまま血中アルコール濃度が上昇し続けるようなら昏睡期に入り、呼吸機能や心拍機能の停止に至るかもしれない。
彰夫は、即座に救急車を呼んだ。そして、テルミを嘔吐物の窒息から守るために、体と頭を横向きにして寝かせた。いわゆる回復体位と呼ばれる体位だ。
「なんでこんなに飲んだんだ」
叫ぶ彰夫に、テルミが悶えながら、絞るような声でうわごとを言った。
「もともと…男に電話して誘うなんて…出来る女じゃなかったのに…」
そこまで言うと、テルミの意識が落ちた。
いよいよ昏睡期に入ったのだ。彰夫はテルミを抱え呼吸と心拍を頻繁にチェックした。救急車はなにぐずぐずしているんだ。彰夫は床を拳で叩きながら叫んだ。しばらくすると、かすかであるが救急車のサイレンの音が聞こえてきた。
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