第5話

 『江の島ハウジング』の入口の自動ドアが開いた。


 皆が出払っていてひとりで店番をしていた彰夫は、手持無沙汰に読んでいた本を閉じる。開いた入口を見つめてしばらく待ったが、誰も入って来る気配もなく、やがてドアが静かに閉まった。彰夫は、首を傾げながら、また本を開く。

 1時間のうちにそれが3回繰り返されると、さすがに彰夫も自動ドアの不具合を疑った。ドアの調子を見に外へ出ると、賃貸マンションの案内が張ってあるショーウィンドの前で、ひとりの少女がうつむいて立ちすくんでいた。

 少女と言っても二十歳くらいの年齢なのだろうが、消え入りそうな全体の印象が、彼女を少女として起想させる。


 彰夫は、少女に話しかけることを控えた。無理に話しかけても、迷惑顔で立ち去る客がほとんどなのだ。彰夫はあちこちを叩きながらドアを点検した。不具合はなさそうだ。やがて、彰夫は自分が呼ばれている事に気付く。その声があまりにも小さいので、はたして何回目で自分が返事することできたのか、自信が無かった。


「えっ、なんでしょうか?」


 少女は、それから黙りこんで一言も話さない。困惑する彰夫だが、このまま少女を放置して席に戻ることもできなかった。


「賃貸物件をお探しですか?」


 少女は、わずかにうなずいた。


「そうですか…。もし、よろしければ中でご希望をお聞かせいただけますか?」


 彰夫は少女をオフィスに導いていった。

 いや、そのつもりで接客カウンターに座ったのだが、少女は入ってこない。不思議に思って、外へ出てみるとそこにいたはずの少女の姿は消えていた。

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