第2話
「うっ、ペッ!」
彰夫は口に入った砂を吐きだすと、下から睨みあげた。
女は彰夫の苛立つ視線を楽しむかのように薄笑いを浮かべ、ゆらゆら揺れながら立っている。荒くアップにまとめた髪元からのぞく左耳に、小さなホクロがあった。
不思議なところにホクロがあるな…。彼女を見て最初に思った印象はそれだった。豊満とは言えないまでも形のいい乳房。引き締まったウエストと長い脚。そんな恵まれたボディラインの上に、胸元が大きく開いた派手なブラウスと、目のやり場に困るほどの短いミニスカート。
それなりの美形な顔なのに、まったく不必要な厚い化粧を施し、それは自分の恵まれた容姿の魅力をわざと打ち消しているとしか思えなかった。
「ここで何してんの?」
「別に…。夜明けを待っているだけだ」
酔いのせいで乱れたイントネーションで喋る女の問いに、彰夫は追い払いたい一心でそっけなく返事を返した。
「地元のひと?」
「ああ…。生粋の地元だよ」
「そう…折角お近づきになったんだから…あんたも飲みな」
女は、飲みかけの缶ビールを彰夫に差し出す。彰夫は、差し出された物を一瞥もせず、この申し出を無視した。
「そうか…飲めないなら、飲ましてやるよ」
女は、缶ビールを上にかざすと、ビールを彰夫の頭に注いだ。
女の奇行に驚いたものの、なすすべもなく彰夫は、滝に打たれる修行僧のごとく、動かずビールの滝を身に受けた。
「どう、美味しいでしょう。はは…」
女は、空になるまでビールを彰夫の頭に注ぎ続けた。
やがて缶が空になると、空き缶を浜の上に投げ捨て、笑いながら元のグループに戻って行く。彰夫は、怒りで震えながらも、自分を押さえようと必死になって目をつぶりじっとしていた。
当然受けた仕打ち許せないのだが、いつもと違った朝を迎えられることが少しだけ新鮮だったりもした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます