光彩戦隊シャインレンジャー

白里りこ

本編

Prologue

英雄の転落


 ドン、と衝撃が来て、気づいたら突き飛ばされていた。


 目の前には、燃え盛るような赤色せきしょくの、広くて逞しい背中。


 レッドに助けられたのだ──グリーンがそう認識した時にはもう遅かった。

 それは一瞬のことだった。


 “悪の魔道”で創られた黒い槍が、レッドの心臓を貫いた。


 パキン、という、辛うじて耳が捉えた儚い音は、彼の魔道のコアが砕かれる音。


 一気に血の気が引くのを感じた。


「兄さん! ──アキ!!」


 兄・レッドの身体が力を失い、真っ逆さまに落下する。

 グリーンは訳の分からない叫びを上げて、夢中でそれアキを追いかけた。何とか空中で捕まえ、抱え込み、すとんと着地してそっと寝かせる。


「アキ、死ぬな。返事をしてくれ!」


「ふ、ふふふ」

 笑い声が降って来た。下手人──敵のボス、リデムが、手中で槍を優雅に転がしている。


「あーあ……っははは。まずは雑魚グリーンを殺るつもりだったけど……大将が身代わりになるとは。愚かだな」


「グリーン、奴に構うな」

 ヘルメット内蔵の通信機から仲間の声が届く。

「奴はこっちで凌ぐ。レッドを頼んだぞ」

「……っ、ラジャー。アキ、目を覚ますんだ!」

「……コウ」

 微かな声がグリーンの名を呼んだ。レッドが、真っ赤なヘルメットの頭をもたげた。

「コウ、無事か。良かった……」

「アキ、どうしておれなんか庇って」

「馬鹿、そんなの分かりきってるだろ。ゲホッ」

 レッドはむせかえった。グリーンは慌てて背中をさする。

「馬鹿なのは兄さんだ。おれなんかのために……」


 グリーンは打ちひしがれて、兄の胸に手をかざした。そこからは“勇気の魔道”の気配が全く感じられなくなっていた。

 魔道のコアを砕かれれば数年間は回復せず、その間、魔道を使えなくなる。ゆえにレンジャー引退を余儀なくされる。

 シャインレンジャー本隊の主戦力であり、普段ならこのようなミスなど絶対にしないレッドが、一人の新米おとうとのために力を失うなど、あってはならないのに。


「……これ以上はオーバーキル……だな」


 リデムは、隊員たちの攻撃を悠々といなしていた。

 かと思えばヒラリと身を翻して、鈍色の空へと舞い上がる。


「それじゃあ……。しばらく会うこともなかろう」

「待て!」

「待たない。私には君たちを、全滅させるつもりは無いから……」


 ブルーもイエローも、ビームの連射を敵の背中に浴びせかけたけれど、それはリデムの腕の一振りでことごとく跳ね返された。


「次会う時までに、腕を磨いておいで。せいぜい足掻くといい……」


 余裕めいた笑い声と共に、敵は曇り空に吸い込まれて消えた。


 グリーンは拳を地面に叩きつけた。

 レッドさえ健在なら、勝ち目はあったのに。自分がしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのに。

「くそっ……!」

 それは、レンジャーにとって、社会にとって、あまりに無念な損失だった。

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