797 エンジェルダウンアタック
「さて、まもなく龍華氷縛の効果が解けるわよ」
天使を捕まえている氷の蛇がガタガタと震えている。
固有結界(だっけ?)による束縛が解けようとしているみたいだ。
「四人とも、いいわね? 作戦通りにやるのよ」
『了解!』
ベラお姉ちゃん、ヴォルさん、ナコさん、ミサイアさんが声を合わせて返事をする。
「えっと……」
「心配しないでいいから、貴女はしばらくそこで見ていなさい」
アオイさんが私の傍までやってきた。
「ソラトを改心させたって聞いたわ」
「えっと。はい、まあ一応」
「あとはエリィを封じれば終わりよ」
天使……エリィは世界を破壊するほどの強い力を持っている。
魔王化した私ならともかく、お姉ちゃんたちにはキツイと思うんだけど。
「彼女たちが心配って顔をしてるわね?」
「まあ、少し」
「大丈夫よ。あの娘たちはすでに貴女の知っている三人とは違う。なにせ彼女たちは『世界の調停者≫になってもらうのだからね」
「世界の調停者……」
チュニー病かな?
「世界間のバランス取り役。そのため彼女たちに固有能力を取得させたのよ」
ぱりーん!
激しい音が鳴って、天使エリィを抑えていた氷の蛇がはじけ飛んだ。
中から出てきた天使は神様の使途どころか、地獄の悪鬼を思わせる怒りの形相をしている。
「おいコラ。アオイ、テメエ、こんなことしてただで済むと思ってねえだろうなァ……!?」
「思ってるわよ。だって貴女はもうとっくに反逆者認定だもの。
「…………は?」
アオイさんからそう言われたとたんエリィは一転して呆けたような顔になる。
それから全身をわなわなと震わせ、必死になって彼女の言葉を否定し始めた。
「何を、何を言ってやがる。そんなの嘘に決まってんだろ。違ぇよ、あり得ねえ。あるわけねえよそんなの。だって、あの方が、あたしを見捨てるはずがねえだろ」
「貴女はやりすぎたのよ第四天使。大人しく罪を認めて投降しなさい」
「うるせえええええええええええっ!」
金切り声の絶叫を上げて天使エリィが吠える。
背中の翼からとんでもない量の輝力を放出する。
「ざけんなよ、っざけんな、ぶっ殺す。ぶっ壊してやる。ぜんぶ、ぜんぶ! 皆殺しだよオイ! ミドワルトを取り戻して、ビシャスワルトをぶっ壊すんだ! すべてはあの方のために!」
「やっぱり、貴女はすでに『壊れて』いるのね……」
エリィはヒステリックによくわからないことを叫ぶ。
その姿を見ていると怖いというよりも悲しくなってくる。
あいつ、一体どうしちゃったの……?
「≪
エリィの体がぼわぁっと光る。
やばい、同情してる場合じゃない!
またあの一億近い分身を作り出す技だ!
「ベレッツァ!」
「任せろ!」
アオイさんがお姉ちゃんの名前を呼んだ。
お姉ちゃんは機械のブーツから火を噴いてエリィに接近する。
※
「行け! 赤の空間よ!」
お姉ちゃんが剣を向けて叫ぶ。
周囲に生まれた赤い光が先行してエリィの体を包んだ。
するとエリィの体は次第に輝きを失い始め、増えようとしていた分身が煙のように消失する。
「は……?」
「光舞桜吹雪(フィオーレ・ディ・チリエージョ)――閃熱果実(フラル・フルッタ)!」
攻撃を強制的に中断させられたところに、お姉ちゃんの得意技である閃熱の花吹雪が襲い掛かる。
「ぐわあああっ!?」
※
「今のは……?」
「あれがベレッツァの
私の呟きにアオイさんが答える。
「≪
相手の攻撃を阻止した上で一方的に攻撃できるってこと?
元からかなり強い輝術剣士であるお姉ちゃんがそんなのを使えば、まさに無敵だ。
「そして次はヴォルモーント」
※
「うおりゃぁっ!」
気合と共にヴォルさんが背後からエリィに襲い掛かる。
連携してベラお姉ちゃんは素早く赤い光をひっこめた。
「このっ、ふざけてんじゃ――」
「くらええぇあああっ!」
拳に輝力を載せて撃ちだすパンチ。
それ自体はいつものヴォルさんの攻撃……だけど。
「うぎゃあああああっ!?」
吹き上がる彼女の炎のような輝力は、まるで火山の噴火を思わせるほど強い。
私の知っている彼女の攻撃とはまるで次元の違う威力だ。
※
「≪
えっと、ヴォルさんの輝力が通常の輝攻戦士の五倍だから……
最低でも輝攻戦士の一〇〇倍、最高だと二〇〇〇倍もの力を使えるってこと!?
「最高時の今、彼女は単純な戦闘力だけなら
それって前の魔王さんとも互角ってことだよね。
さすがというか……ヴォルさんはすごいなあ。
「最後はナコね。彼女の能力自体はそれほどレアではないけれど、三人の中で最も恐ろしい能力かもしれないわ」
※
「ダイゴロウ。手伝ってもらえますか?」
「おうよ」
空中に立つナコさんとダイ。
ナコさんのブーツは他の人たちと違い、足元に即席の足場を構築するものらしい。
自動的に高さを調節してくれるので、ほとんど地面の上にいるように動けるみたいだ。
ヴォルさんがエリィから離れる。
同時にナコさんはダイの手を掴んだ。
二人の姿が消失する。
直後に現れたのはエリィの左右だった。
「クソが、テメエらなんなんだよォ!」
エリィが光の剣を振り回す。
怒り任せのメチャクチャな行動。
その攻撃は運悪く右側に表れたナコさんに――
当たらなかった。
彼女の体を光の剣がすり抜けていく。
「葉桜流奥義――」
「狂咲・八重の太刀!」
二人の剣が左右から交差。
それぞれ四連斬を叩き込んだ。
※
「≪
斬輝というナコさんが元から持ってる力に加われば、まさしく一撃必殺だ。
固有能力……輝術に似てるけど、とても強力な、恐ろしい異世界の力。
「う、うぎゃああああああっ!」
姉弟の連携攻撃を受けたエリィが絶叫を上げる。
最後のダイの一撃を食らった彼女の胴体が真っ二つに斬り裂かれた。
背中の翼が白い炎のように膨れ上がると、そのまま残った輝力ごと虚空へと消えていく。
「やったわね」
「えっ、やっちゃったんですか?」
満足そうに微笑むアオイさん。
一方、ミサイアさんは拍子抜けしたように驚いている。
「予定だと次は私の固有能力の見せ場だったはずなのに……」
「無事に倒せたんだからいいんじゃないの。元からかなりのダメージを蓄積させていたか、それともあの少年の助力があったせいかしらね。あ、ちなみに彼女の固有能力は≪
「恥ずかしいからまだ見せてない能力を口頭で語らないでください! こっちに来てからずっと出し惜しみしてきたのに! しかもすごい雑な説明だし! だいたいアオイさんはいつも……」
「エリィは死んだの?」
両断されたエリィの下半分は地上に落下していった。
けど、上半身はうな垂れた姿勢のまま空中に浮かんでいる。
私が散々攻撃してもずっと破れなかったエリィの防御がついに消えた。
初めて本体にダメージが通り、普通の人間なら間違いなく死んでるような状態だ。
私の質問にミサイアさんはマジメな表情に戻り、こほんと軽く咳払いをしてから説明をする。
「いえ、死んではいません。単に天使としての力が限界を超えたみたいです」
「あのまま氷漬けにして紅武凰国に連れて帰るわ。あんなのでも一応は紅武凰国の重要人物ですからね」
意識があるようには見えないけど、本当に死んでないのかな。
そもそも天使ってなんなんだろう。
アオイさんはあいつをさっき『壊れてる』って言ったけど……
「……いい」
小さな呟き声が聞こえた。
「アオイさん」
「ええ。どうやら――」
二人が何やら確認をしあう。
エリィの残った上半身から輝力が溢れてくる。
「もういい。もう知るか。あたしはあの方のためを思ってやったのに。ずっと頑張ってきたのに。それが間違ってたって言うなら、もう……」
「ちっ!」
ベラお姉ちゃんが赤い光を伸ばす。
エリィはそれに捕らわれるより早く上空へと舞い上がった。
天使の翼はなく、ただ光だけを纏って。
「みんな壊してやる! この世界も、管理局も、紅武凰国も全部ぶぶぶぶぶぶばばばばっばあっばあああああああだだががざざざあああああああだだあだだだだああああああだだだああああああああああ!」
遥か空へ、夜空に向かって飛ぶ。
その姿が肉眼で見えなくなっても、まだ上へ。
意味不明な絶叫を上げながら、どこまでもどこまでも高くに。
「やられたわね……」
「どういうこと? エリィはもう力を失ってたんじゃなかったの?」
「おそらくは≪
成層……何?
「人間はもちろん、鳥でもたどり着けないほどずーっと上よ」
「えっと、じゃあ追いかけなきゃ……」
「飛行ブーツでは高度八〇〇〇メートルより上には行けないんですよ」
やばいじゃん。
エリィは完全に怒り狂ってた。
放っておけば空からあの白い槍が降り注ぐ。
一億近い数の白い槍の大爆発はミドワルトを破壊し尽くすのに十分だ。
「じゃあ、ちょっと行って止めてきます」
「無理ですよ。上空に行けば行くほど空気が薄くなって気温も下がるし、さらに上の熱圏に入れば二千度近い高温になります。生身の人間が行けるような場所じゃないですよ」
それは行ってみなきゃわからないでしょ。
体中の無限の輝力を放出。
さらに集めた周囲の輝力を吸収。
内と外の両方から爆発的に膨れ上がらせる!
「魔王化……変身!」
外と内の輝力が混じり合って変化。
髪の色も毛先を残して輝く銀色に染まる。
実はさっきの説明中も、お姉ちゃんたちの攻撃中も、ずっと輝力を集めたんだよね。
「え? え? なんですか、その異常なSHINE――」
「説明してる暇はないですよね。それじゃ、行ってきます!」
私は
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