783 オンリーソード

   ▽


「くそっ……!」


 ジュストは大いに苦戦していた。

 こちらの攻撃が魔王にはまるで当たらないのだ。


 彗星剣を振る。

 魔王はその手に持った巨大な剣で受け流す。

 あるいはギリギリで斬撃を見極め、カウンターを叩き込んでくる。


 シャイニングモードによって機体は手足の延長上のように動かすことができる。

 相手が小さいからと言って攻撃が当たらないということはない。

 単純に魔王の回避・防御能力が異常に高いのだ。


 対して、こちらは先ほどから何度か敵の攻撃を食らってしまっている。

 今のところ致命傷になるほどのダメージはないが、それもいつまで持つかわからない。


『いいぜいいぜ輝攻戦神! パワーもスピードも申し分ねえ! 相手が並の逸脱者ステージ1程度なら倒せるかもな!』


 魔王の口調には明らかに余裕があった。

 戦闘中もこちらを品定めするような発言を連発してくる。

 五十倍以上も大きなグランジュスト相手にやつは全く尻込みしていない。


 こうなったら、イチかバチか大技に賭けるしかない。

 ジュストは機体を大きく後方へと逃れさせた。


極超新星イペルノーヴァ……!」


 そして、耐久力の許す限り彗星剣に輝力を集める。


『必殺技か!』


 魔王は技の発動を邪魔することなく、巨大剣を構えて受けて立つ姿勢を見せた。

 こちらを甘く見ているのならばそのチャンスを活かさない手はない。

 受ける姿勢を取ったら巨大剣ごと真っ二つにしてやる。


「うおおおおおおっ!」


 推進力を全開に敵へと向かって突っ込んでいく。

 爆発しそうなほどに膨れ上がった輝力を剣に乗せて叩きつける!


「一・刀・両・断! 必殺ビッグバン斬り!」


 確実な狙いを定めて彗星剣を唐竹割りに振り下ろす。

 受け流すことすらできない圧倒的破壊力をもった一撃は――しかし。


『っと、こいつを受けるのはアブねえな』

「……っ!?」


 魔王には当たらなかった。

 避けられた……というわけではない。


 当たる直前になんらかの力が加わって攻撃を


『次はこっちの番だ。全力でいくぜ、覚悟しろよ?』


 そして今度は魔王の巨大剣に莫大な輝力が集まっていく。

 まるですべての闇を凝縮したかのような禍々しく底知れない輝力が。

 全力で攻撃を放ったばかりのグランジュストは避ける間もなく、魔王が懐に入ることを許してしまう。


魔王黒冥剣ヨモツオオミツルギ。えーっと……なんでもいいや、鬼刃大殺斬!』


 魔王が莫大なエネルギーと共に巨大剣を振りぬく。

 その一撃はグランジュストの胴体ではなく手首を斬り飛ばした。

 グランジュスト唯一の武器である彗星剣が宙を舞って遠くへ吹き飛んでいく。


『武装が手持ち武器一つだけってのはいただけねえな。せっかくのスーパーロボットなのに、腕をやられるだけで戦闘不能なんて勿体ねえぜ?』

「くそっ……!」

『とはいえ、この俺相手にここまで戦えたことは十分に誇っていいぞ。今日の所は見逃してやるから一旦ミドワルトに帰れよ』


 ……なんだと?


「貴様、ふざけいるのか!?」

『別にふざけてねえよ。ちゃんと量産化のめどを立てた上で、次はもっと武装を強化してから来い。ミドワルトの軍事力が増加することは俺にとっても利益があるんだよ』


 なんだ、何を言っているんだこいつは。

 ジュストは魔王の真意が読めずに戸惑った。


『っと!』


 横合いから数十もの光条が魔王を襲った。

 魔王は巨大剣を横に構えてそれを防ぐ。


『ああそうか。まだは残ってたな』


 魔王は笑って光の飛んできた方を見る。

 ジュストもそちらに視線を向ける。


 ピーチブロンドの髪。

 黒を基調に赤ラインが入った学生服のような衣装。

 周囲に数十、いや、数百もの白熱する蝶を浮かべた女の子が飛んでいる。


「ルー!」




   ▽


「ヒカリ……」


 魔王ソラトはその少女を見て呟いた。


 我が娘、ヒカリ。

 ただし傍で過ごしたのは五〇〇年前の二年間だけ。


 二歳になってすぐ妻のハルと共にコールドスリープに入り、紆余曲折を経てミドワルトへと逃がされたのが、今からおよそ十五年ほど前。


 その容貌には確かにハルの面影がある。

 ピンク色の髪が何よりも彼女との血の繋がりを証明していた。


「こんにちは、魔王さん」

「おう」


 彼女は明確な敵意を持ってソラトを睨んだ。

 その周囲に浮く白い蝶は設置型の攻性魔法だろう。


「あなたは私の本当のお父さんらしいですね」

「ああ、そうだ」


 ミドワルトでは人間として育てられたのだろう。

 そして、おそらくは人間側の都合で戦力として鍛えられた。


 そして彼女はこうして魔王であるソラトの前に立ちはだかっている。

 これまでの人生でどれほどの苦難があったのかは想像する余地もないが……


「けど、そんなことはどうでもいいんです」

「ほう?」


 ルーチェの表情にはわずかな迷いもない。

 生き別れの親ではなく、倒すべき敵を相手を前にした戦士の顔で、彼女はハッキリとこう言った。


「この戦争を終わらせるために、私はあなたを倒します。そして私が新しい魔王になる!」

「……はははっ!」


 ソラトは娘の言葉に少なからず驚いた。


 なんだなんだ。

 なかなかどうして。


「いい女に育ったな、ヒカリ」

「だまれ! 悪の元凶!」


 悪の元凶か、返す言葉もねえよ。

 お前らから見りゃ俺は間違いなく諸悪の根源だからな。


 そんだけの覚悟があるなら今さら余計な会話も不要だ。

 成長した娘とのコミュニケーションとしちゃかなり色気もねえが……


「お前は私がやっつける! 覚悟しなさい、魔王!」


 敵として思いっきり相手してやるよ。




   ※


 相手は魔王。

 本当の意味で最強のエヴィル。

 これまで戦ってきた将や覇帝獣ヒューガーよりも間違いなく恐ろしい敵だ。


 手加減は必要ないし、油断なんてしてる余裕はない。


 閃熱白蝶弾ビアンファルハ八一九三8193

 爆炎黒蝶弾ネロファルハ八一九三8193


 私を中心に周囲一キロの空間全部、魔王のいる場所も含んだ辺り一面に配置する。


「は? おい、なんだそりゃ……」

「全部まとめて、いっけーっ!」


 そのすべてを一斉にビーム化&爆発!

 空を埋め尽くす閃光と爆撃が魔王の逃げ場を奪う。


「メチャクチャだなこの野郎!」


 いくつかの攻撃を食らいながらも魔王はこちらに向かって飛んできた。

 巨大ロボットとも渡り合えるバカでっかい剣を振りかぶる。

 私は閃熱の翼を広げて前を向いたまま後方へ逃げた。


「逃げんな、待ちやがれ!」

「待たない!」


 飛びながら次の攻撃のための輝術を展開。

 今度は毒煙紫蝶弾ヴィオラファルハ二〇四九2049ほど。

 紫色の毒入り煙幕を張って相手の視界と行動を妨げる。


「げほげほっ、くっそ、厄介な……!」


 全力で戦うって言っても、がむしゃらに突っ込むつもりはない。


 とにかく最初は逃げ回りつつ様子見に徹する。

 絶対に勝つためには全力で、けれど慎重に戦わなきゃダメだ。

 なにせ魔王があのどんな攻撃手段を持っているかわからないんだから。


 ビシャスワルトを支配しているエヴィルの王が、剣で斬るしかできないわけがない。

 たぶんだけど、私以上の炎や爆発、閃熱攻撃なんかを使ってくるはずだ。


 もちろん逃げ回りながらも可能な限りダメージは与えていく。

 お次は焼夷紅蝶団ロッソファルハ烈風蒼蝶弾アズロファルハで炎攻め。

 最大火力の劫火が魔王の周囲を覆う。


「熱っちぃーっ!」


 炎の向こうでうっすら声が聞こえた気がするけど、魔王はまだ何も反撃してこない。

 この程度の攻撃じゃ本気にもならないってこと……!?

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