773 ◆空戦部隊VS輝攻戦神
「おい管理局のテストパイロット。まもなく出撃だから準備しておけよ」
「あいよ」
スピーカー越しに怒鳴るフジムラの声が聞こえてくる。
あたしは適当に返事をしつつ聞き流した。
「ちっ、礼儀も知らない局員共が……」
だから局員じゃねーっての。
詳しい事情を説明する気もないけど。
船はもうビシャスワルトに入ったらしい。
さっき何機か別の機体が発進してたし、
さて。
それじゃなんとかしてここから抜け出さなきゃね。
抜け出して、この世界のどこかにいるルーちゃんを探しに行かなきゃならない。
ただ、さすがに今すぐはまずい。
なにせ周りはすべて超兵器の集まりだ。
あたしの乗ってるこの『ヴォレ=シャープリー』も同等の戦闘力があるらしいけど、しばらくは様子を見ようと思う。
『空戦部隊、出撃準備せよ!』
さっきも聞いた男の声が響いた。
「ははっ、ようやくか!」
フジムラをはじめとする他のパイロットたちが自分の機体に乗り込んでいく。
作業員たちが避難すると同時に船体ハッチが開き、マーブル模様の気色悪い空が目に飛び込んできた。
『んじゃ、お先に!』
出口に一番近い機体から順に外へ飛び出していく。
この二番格納庫に収められた機体はあたしのも含め全部で九機。
すべてが空戦型で、あたし以外の八機はぜんぶ青い『ヴォレ=ビュゾラス』だ。
『おいおいどうした、テストパイロットさんよ。外に出るのが怖いのか?』
八機目のやつがわざわざそんな通信を送って来た。
当然、あたしはそんなの無視する。
こっちもひどく高揚してるから、バカの相手をするような気分じゃないのよ。
あたしは以前と同じように神話戦記の真似をして出撃の名乗りを上げた。
「インヴェルナータ。ヴォレ=シャープリー、行くわよ!」
※
あたしの機体は隊列の最後尾を飛んでいた。
BCSで頭の中に操縦方法が浮かび、考えるよりも先に体が動く。
『なんだ、上手に飛べるじゃねえか』
『あとは戦闘中にビビったりしなきゃ完璧だなぁ?』
『背後には常に気を付けておいた方がいいぜ。美人の管理局員さん』
好き勝手に言う他のパイロットたち。
だけど、こいつらの声にも明らかに緊張の色が混じっている。
自分たちにとっても初めての実戦、不安を誤魔化すための軽口を叩いているんだろう。
「そっちこそ、あたしの足を引っ張るんじゃないわよ」
だからあたしは遠慮なく挑発を返してやる。
『言いやがったな、このアマ……!』
『お喋りはそこまでだ。敵は近いぞ』
先頭を飛ぶフジムラがいつまでも喋っている部下たちを叱る。
あたしの機体の全天ディスプレイの端っこに映ったレーダーにも反応があった。
『今回の作戦は母艦から離れた位置にいる敵の偵察だ。なんでもミドワルト製の人型兵器らしいぞ。状況次第では交戦して拿捕するか、最悪の場合は破壊も可だ。その場合は撃墜した敵機の残骸収集も行う』
『ファンタジー世界に人型兵器ねえ……それってゴーレムとかってやつじゃないの?』
『岩の巨人ってやつか。そんなのがFGの相手になるのか?』
『知るか。技術力の差ってやつを見せつけてやるぞ』
ミドワルト製の人型兵器……
こいつらは詳しく知らないようだけど、あたしは以前にそれを見ている。
ここに来る前、新代エインシャント神国上空に表れた、巨大な輝士の姿をした真っ白な巨人だ。
FGのサイズはおよそ二〇メートル前後。
あいつはたぶん一〇〇メートル近くはあった。
まさかあれと戦うことになるとはね。
まあ、適当にウロチョロして誤魔化しておこう。
そんで隙を見てこいつらから離れてルーちゃんを探しに行く。
よし、これでいくわ。
『敵は南南西に向かって飛行している。このペースならあと五分もあれば接敵――っ!?』
レーダーに映る敵影を示す光点が急に進路を変えた。
向こうもこちらに気づいたのか、大きくカーブして速度を上げる。
『来やがるか!』
『上等だ。俺が撃ち落としてやるよ!』
血気に逸った一機の『ヴォレ=ビュゾラス』が先行する。
フジムラは特にそれを咎めることもなく先頭を譲った。
『さあ来い、ゴーレ……ム?』
相互に接近しているため、接敵までは二分もかからなかった。
やがて相手の姿が肉眼で見えるほどに接近する。
『おいおい、なんだありゃあ』
『あのデカさは反則だろ……』
鎧輝士のような姿をしたミドワルト製の人型兵器。
その大きさはこうしてFGに乗ってるとさらによくわかる。
こちらの機体と比べると、向こうの機体は実に五倍近くも巨大なのだ。
『なんだ、お前たちは?』
スピーカーが若い青年の声を拾う。
どうやらあっちの巨大人型兵器のパイロットが喋ってるみたいだ。
『こいつはずいぶんと若いやつが乗ってんな』
『もう一度聞く。お前たちは誰だ。ビシャスワルト人なのか?』
『違えよ。怪物どもと一緒にすんな、ぶっ殺すぞ』
『我々は紅武凰国軍だ。未確認機体のパイロット、大人しく投降することを勧める』
荒々しい口調でケンカを売る部下に代わってフジムラが呼びかける。
とはいえ、その態度もずいぶんと居丈高だ。
巨大人型兵器のパイロットは数秒の沈黙の後に疑問の声を口にした。
『コウブオウコクとはなんだ?』
『……なんだ、知らないのかよ』
『よくわからないが投降するつもりはない。お前たちが魔王の手下じゃないのなら、このまま去らせてもらう』
ん?
あれ、なんかこの声……どっかで聞いたことあるような気がするわ。
『そういうわけにはいかない。そのような機体をミドワルトが製造できるというのは、我々にとって非常に脅威なのだ。是非とも調査させてもらいたい』
『何度も言うがグランジュストから降りる気はない』
『では交渉決裂だ。力づくで捕縛させてもらう!』
『おっしゃ、許可が出た! 行くぜ!』
フジムラが話し合いを打ち切る宣言を出した瞬間、先行していたパイロットが機体を突っ込ませた。
右腕に装着したガトリング砲を起動。
超高熱の光弾が巨大人型兵器の胴体を撃つ。
相手は大きいだけあって攻撃を当てるのは容易い。
けど。
『攻撃してきたってことは、敵ってことでいいんだな!』
敵の巨大人型兵器……
グランジュストとか名乗った巨大人型兵器は、右手に持ったバカでかい剣を大きく横に振って、
『はっ! FG相手に実体剣なんて――』
『神速ストーム斬!』
謎の技名を叫ぶと同時に、斬った。
『え……』
停止状態からあり得ない加速をして、ヴォレ=ビュゾラスの胴体を両断。
先走ったパイロットは脱出する暇もなく爆光に飲み込まれた。
『っ、散開! 距離を取りつつ周囲を囲め!』
『りょ、了解!』
仲間をやられて動揺を見せたのも一瞬のこと。
フジムラが命令を下すと、残ったFGは一斉に行動を開始した。
『異世界のロボットが、調子に乗るなよ!』
そして戦闘が始まった。
ミドワルト製の巨大ロボットVS紅武凰国のFG部隊。
数で勝る紅武凰国軍は相手を取り囲みつつ、けん制の光弾を撃ち続けていく。
『うおおおおおっ!』
グランジュストが巨大な翼で空を斬り割いて飛ぶ。
また一機、その刃で真っ二つになる。
『ま、待て、助け――ぎゃああああ!』
『畜生、なんで光弾が効かねえんだよ!』
『ミサイルを投下しろ! あれなら!』
『ダメです! 敵機表面に損傷ありません!』
『ふざけんな! 一体どんな装甲してんだよ!?』
こちらの攻撃はまったく通じない。
一機、また一機と斬り落とされていく。
あたしはそれを離れた位置から眺めていた。
『なんなのよあれ。どっからどうみても
以前にあたしはPBSヴォレ=シャルディネを装備して海に居座る大怪獣と戦ったことがあった。
あの時も攻撃がさっぱり通じなかったけど、こいつはさらに機動力でもこちらを上回っている。
本当にあれってミドワルトで作られたものなの?
『ぎゃあああっ!』
『藤村大尉っ! おのれ貴様、よくも――うわあああああっ!?』
『これで……終わりだ!』
あっという間に、あたし以外のFS空戦部隊は全滅してしまった。
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