683 やっと会えた! けど……
あ、ボスをやっつけた。
エヴィルたちが一斉に逃げていくよ。
いちおう念のために射程外に出るまで追撃しておこう。
逃げる敵を狙うのは命中率が下がるから効率悪いね。
よし、残った黒蝶を吸収して、砲撃おしまい。
「終わりました」
「お、おう。おつかれ」
「これが『魔王の力』か……」
引きつった顔で控えめな拍手をしてくれるヴォルさん。
その横でなんだかチュニー病みたいなことを呟くアルなんとかさん。
もっと素直に褒めてくれてもいいのよ?
「全滅させたの?」
「ううん、ボスをやっつけたら逃げていったよ。たぶん、十分の一くらいしかやっつけてないと思う」
本気でやれば全滅させることもできたかもしれない。
けど、この遠距離砲撃は、輝力の消費がとんでもなく激しい。
これから敵の将と戦うかもって考えたら、あまり輝力の無駄遣いはできない。
「あ、そうだお父さ……じゃなかった、アルなんとかさん」
「言い直さないでも良いんだぞ。俺はいつだってお前の父親だよ」
「うるさいだまれひとのこと見捨てたくせに今さら父親面するんじゃない」
「はい。すみませんでした」
変なこと言うから危うくさつがいしそうになったよ。
怒りの気持ちをグッと堪えて私は彼に要求をした。
「お礼にってわけじゃないけど、輝力がいっぱい補充できる方法があったら、私に教えてくれない?」
十分な輝力が補充できて、ヴォルさん、ナコさん、ベラお姉ちゃん、それとジュストくんの協力もあれば、たぶん将だって倒せる。
お望み通りに強くなってあげたんだから。
それくらいのサポートはしてくれるよね?
※
なんでも言ってみるもんだね。
小輝鋼石を一〇個ももらえちゃったよ。
中輝鋼石には及ばないけど、これだけあればかなりの輝力が補充できる。
さっき消費した分を軽々と補っておつりが来るくらいだよ。
しかもこの街で一番いいホテルまで用意してもらっちゃった。
意外と話のわかる人だったね、あの外道。
「ルーちゃん大丈夫? まだ怒ってる?」
「え、ちっともまったく怒ってないけどなんで?」
「なんかさっきからすごい雰囲気が怖いんだけど、やっぱりアイツのこと許せないの?」
変なこと言うヴォルさんだね。
もうあの自称英雄王のことなんて何とも思ってないってば。
まあ、今後何があろうと二度とあいつをお父さんなんて呼ぶことはないけどな!
「そんなことより、私は先にホテルに行って輝力を補充してるから、ヴォルさんはベラお姉ちゃんたちを呼んできてくれませんか?」
ホテルの場所は連合輝士団の宿舎からかなり離れてる。
こっそり滞在するだけならお姉ちゃん達も問題ないでしょう。
「わかったわ。ちょっとひとっぱしり、町まで迎えに行ってくる」
「よろしくね」
「今のルーちゃんなら問題ないと思うけど、一応周りには気をつけてね」
彼女はそう言うと、輝攻戦士化して近くの建物の上に飛び乗り、そのまま屋根伝いに街壁の方へと向かっていった。
※
小輝鋼石の表面に
「ふああああ……」
身体の中が輝力で満たされていく感覚がすごく気持ちいい。
輝力を吸い尽くした小輝鋼石は灰色の石になってボロボロと崩れる。
一〇個すべて吸収し終わった時には思ったよりも大量の輝力が得られていた。
「よし、お腹いっぱい」
中輝鋼石を壊しちゃった時ほどじゃないけど、これなら将とも十分に戦えそう。
待ってろ、エヴィルめ!
邪悪な侵略者なんてやっつけてやる!
とはいえ、先はまだまだ長い。
先生の力と無限の輝力を持つ黒将。
全力で挑んでも倒しきれなかった夜将。
そいつらよりさらに強いらしい獣将と竜将。
それから、何故か夜将を助けていたカーディも。
最後に待ち受けるのはエヴィルの大ボスである魔王……
ぶんぶん。
戦う前から不安になっても仕方ない。
私ひとりじゃなく、みんなで力を合わせればきっと何とかなるよ!
さて、輝力が満たされたらなんだか眠くなってきちゃったよ。
ちょっと一眠りしよっと……
※
目を覚ましたら夜だった。
輝光灯のスイッチを探して立ち上がる。
すると、廊下から立ち話する声が聞こえてきた。
「連合輝士団がエヴィルを打ち払ったってさ!」
「それは本当か!? たしか数千の大群だって聞いたが……」
「間違いないよ。先ほどエース様が数名のお供を連れて先に戻ってきたんだ」
連合輝士団のエースって、たしかジュストくんの事だよね。
ジュストくんがさっきの宿舎にいるんだ!
はやく会いに行かなくっちゃ。
ふふふ、いきなり会いに行ったらびっくりするかな?
一年間ずっと会えなかったし、もしかしたら心配してくれてたかも。
考えたらいても立ってもいられない。
早く感動の再会をはたさねば!
「待っててね、いま行くよ!」
窓を開け放ち、私は窓から飛び出した。
「おい、あれなんだ?」
「光る翼……まさか天使か!?」
閃熱の翼を拡げてルティアの夜を飛ぶ。
人目も気にせず、私は一直線に輝士宿舎を目指した。
※
しゅたっ。
輝士宿舎の屋根に降り立ったよ。
さっきの門番さんは気づいていない。
さて、ここからどうやってジュストくんに会いに行こうか。
強引に突破してもめ事になったら面倒だし……
となれば、彼の居場所をまず探しましょう。
新式流読み。
指先から探索の糸を伸ばす。
それでこの宿舎の中をくまなく精査する。
建物の中にいる人は全部で十八人。
その中にジュストくんらしい輝力は……いた!
彼の気配はよく知ってるから間違いない。
私にはそれがジュストくんだってハッキリわかる。
ジュストくんはいま二階の奥の方の部屋にいる。
上手く潜入すれば、誰にも見つからず会いに行けそう。
屋根の縁まで移動する。
身を乗り出し、近くの窓を
穴から中に手を差し込んで鍵を開け、建物の中に侵入する。
ここからなら他に誰もいない。
私は小走りで彼のいる部屋へと向かった。
そこは丁字路の突き当たり。
他の輝士に見つからないうちに急いで駆けつける。
「ジュストく――」
っと。
誰かが階段を上がってきた。
私は見つかる前に素早く通路の角に身を隠す。
もう、肝心なときに邪魔者か!
早くどっか行ってよね!
宿舎の廊下は明かりが付いていない。
窓から漏れる僅かな月明かりだけが通路を照らす。
その人の姿はよく見えない。
ただ、長い髪が揺れていることだけはわかる。
輝士宿舎なのに、女の人?
その人はジュストくんのいるはずの部屋の前で足を止めた。
こんこん。
ノックの音が響く。
ドアがゆっくりと開き、彼が姿を現した。
「シルク」
忘れるはずもない、私の大好きな人。
久しぶりに聞いた彼の声は、私じゃない女の人の名前を呼んで、
「無事に戻って来られたのですね」
「うん。よくわからないけど、敵が勝手に撤退してね」
「よかった……私、もう貴方に会えないかと思って、不安で……」
「僕が君を残して死ぬわけないよ」
薄暗闇の中。
二人の男女は、まるで恋人同士みたいに抱き合って。
「シルク」
「ジュスト……」
互いの名を呼び合って、口づけを交わした。
……えっと。
あれ?
あれれ?
なんで、どうして?
「どういうこと……?」
私が思わず呟くと、二人はハッとして身体を離す。
ジュストくんは彼女を庇うように背中に隠した。
「何者だ!?」
剣の柄に手を掛け、睨む目つきは鋭い。
なんでそんな顔で私を見るの?
あ、そっか。
いまの私、不法侵入の不審者だ。
でも……なんで?
「ジュストくん……なんだよね?」
「…………ルー?」
ああ、懐かしい呼び方。
彼だけが呼んでくれる、私の愛称。
でも、今の彼の隣には、私じゃない女の人がいる。
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