646 ◆謎の一団
カキン!
「なっ……」
あたしの振り下ろした光の棒は、確かにドラゴンの首筋に当たった。
けど、それだけ。
首を切断することはできなかった。
分厚い鱗と皮膚に阻まれ、完全に止められている。
なんて硬さ。
まるで鋼鉄の盾みたい。
ライフルの弾丸が普通に効いてたから気づかなかったけど、ドラゴンの防御力は並のエヴィルとは比べものにならないほど強固だ。
「ギャオオオオオーッ!」
「うわあっ!」
とはいえ、そこそこのダメージは与えたみたい。
ドラゴンは大きく首を振ってあたしをはね飛ばした。
「うわ、うわうわうわっ」
きりもみ状態で落下していくあたし。
体勢を立て直そうとするけど翼が制御できない。
このままじゃ地面に叩きつけられる――そう思った直後。
「よっ」
「わあっ!?」
柔らかい感触に抱き留められた。
何度か瞬きしてみると、目の前にミサイアの顔がある。
どうやら彼女が激突する直前であたしを受け止めてくれたみたい。
……いや、マジで?
「大丈夫ですか?」
「あ、あんたこそ大丈夫なの?」
別に自分が重いとは言わない。
けど、それでも人ひとり分の体重だ。
それが一〇〇メートル近い高さから落っこちてきたのに。
いくらリングの守りがあるとは言え、素手で受け止めるなんて尋常じゃない。
「これくらい平気ですよ」
ケロっとした顔であたしを地面に降ろすミサイア。
やっぱりと言うか、彼女の足下は受け止めた衝撃で軽くへこんでいる。
どんな化け物レベルの腕力してたら、地面がえぐれるほどの衝撃を受けて無事でいられるんだ。
「いやあ、それにしても本物のドラゴンはすごいですね。ファンタジー世界に迷い込んじゃったって実感が湧いてきます」
「感想はいいから。あんたならアレ、倒せる?」
「固有能力を使えれば瞬殺できますけど、禁止されちゃいましたからね。さすがに武器なしであんな巨大な生き物と戦うのは厳しいです」
「これ使う?」
あたしは右手にはめていたグローブを取ってミサイアに渡した。
「なんですか、これ?」
「よくわかんないけど、力を強化する武器みたいよ」
「微量のSHINEを感じますね。なるほど、これなら――」
「キャオォォォン!」
そうこうしている間に、ドラゴンがまた急降下してくる。
あたしは横方向に飛んで逃げ、ミサイアは素早く地面を転がった。
「……何とかできるかも知れませんね!」
「具体的には!?」
「私がトドメを刺します。ナータさんはエネルギー切れに注意しつつ、銃撃で牽制を続けてください。空中に逃げられないよう上手く誘導して欲しいです」
「おっけ!」
方針が決まれば、即座に行動を開始する。
あたしはドラゴンの周囲をぐるりと回りながら、地面スレスレを飛びまわった。
ドラゴンは巨大なしっぽを振り回してあたしを潰そうとする。
それをギリギリで回避しつつ武器を構えた。
「こっちよ、トカゲ野郎!」
ミサイアが反対側に回り込むのを横目で捉えつつ、正面に構えた二丁のマルチスタイルガンから、光の弾丸をドラゴンの顔面目掛けて何発も何発も撃ち込む。
「ギャオオオオオォォォォォッス!」
あ、目に当たった。
今までにない強烈な苦しみ方だ。
ドラゴンは怒りの咆哮をあげて翼をメチャクチャに羽ばたかせた。
「よっ」
それを潜り抜け、ミサイアがドラゴンの背中に取りついた。
上昇しようとするドラゴンの体を駆け上って頭部にたどり着く。
「はあああああっ!」
そして彼女は、渾身の力を込めたパンチをドラゴンの脳天に撃ち込んだ。
「ギュゥゥゥウウウアアアアァァァア!」
さっきよりもさらに悲痛な絶叫を上げる。
ドラゴンは羽を広げて空へ舞い上がっていく。
頭に乗っていたミサイアが体から振り落とされた。
「ミサイアっ!」
「平気です!」
彼女は曲芸みたいな身のこなしで空中で体制を整えると、そのままストンと両足で地面に降り立った。
「すっごいスリルでした! 私、ドラゴンの背中に乗っちゃいましたよ!」
どうやら怪我ひとつしていないようだ。
何が楽しいのか、らんらんと目を輝かせている。
「やったの?」
「手応えはありましたが、頭蓋までは貫けませんでした。このまま退いてくれると良いんですけど」
あたしたちは頭上を見上げた。
ドラゴンは上空を旋回したまま降りてこない。
やがて、その動きがぴたりと一点で停止した。
頭をこちらに向け、口を大きく開く。
「ギャオオオオオオース!」
口内にエネルギーが溜まっていく。
またあの炎のブレスを吐くつもりだ。
「はっ。学習しないトカゲね」
あたしたちはミドワルト戻ってくると同時にブレスの中にいた。
すぐに炎の外に逃れたから、特にダメージもなし。
だから今度も大丈夫……よね?
「ナータさん。実は説明をしてなかったことがあるんですが」
「早く言いなさい」
「リングにはダメージが蓄積するんです。実は最初のブレスでかなり消耗をしていまして、そのあとも何度か攻撃を受けたから、下手したら次のブレスには耐えられないかも」
「ごめん。ひとり逃げるから後は頑張って!」
あたしは助けてもらった恩とか人の道とかを全部投げ捨て、ブレスの範囲外に逃れるべく
その直後。
爆音が轟いた。
「な、何!?」
思わず逃げることを忘れて耳を塞ぐ。
ドラゴンはまだブレスを吐いていない。
いや、それ以前に……
「ギャアアアォォォーッ!?」
滞空中のドラゴンの翼で何度も爆発が起こっていた。
さっきの音が響くと、そのたびに連続で爆光がきらめく。
「なにあれ、輝術?」
「いえ、あれは多分……」
数度めの爆発が終わった頃には、ドラゴンの翼はボロボロになっていた。
たしか、ドラゴンは翼から輝力を放出して空を飛んでいるんだっけ。
浮力を失った巨体が、真っ逆さまに落ちてくる。
「こっちに落ちてきますね」
「のわあああっ!?」
あたしたちは慌てて落下地点から走って逃れた。
地面に落ちたドラゴンが地響きと土埃を巻き上げる。
その音に混じって、若い男性の声が聞こえた。
「敵の撃墜確認! 歩兵隊突撃!」
土煙の中を走る複数の足音。
続けて、ぱん、ぱん、という軽い破裂音が聞こえてくる。
「今だ、取り付け!」
「うおおおおっ!」
煙が晴れる。
ドラゴンの体には軽鎧を纏った輝士たちが群がっていた。
彼らは手にしていた細長い筒を背中に収め、剣を抜いてドラゴンを何度も斬りつける。
やがて、ドラゴンの体が淡い粒子になって消滅する。
あれはエヴィルが死んだときに起こる現象だ。
ドラゴンは倒され、後には緑色のエヴィルストーンがひとつ転がった。
※
「整ー列ー!」
突然現れドラゴンを倒した謎の輝士たち。
彼らは、リーダーらしき人物の号令に従って二列に並んだ。
一糸乱れぬ統制は、相当に訓練を積んだ輝士団だってことがよくわかる。
号令をかけた銀髪の青年があたしたちの方に向かって歩いてくる。
「少女たちよ、怪我はないか?」
「あ、はい」
かなりの美形青年だ。
立ち居振る舞いにも気品が感じられる。
まあ、あたしは外見が良かろうと男に興味はないけど。
「助けるのが遅くなって済まなかった。もし良ければ、そなたらを近くの町まで送らせて欲しい」
「いや、別にいいです」
謝られる筋合いなんてない。
助けてもらったのはこっちだし。
「あたしらは大丈夫ですから。それじゃ、助けてくれてありがとうございます」
一応、丁寧にお礼を言ってそそくさと立ち去ろうとする。
すると。
「ああ、待ってくれないか」
「待ってくださいナータさん」
銀髪さんとミサイアに同時に止められた。
特にミサイアはあたしの肩をがっしりと掴んで強引に。
「い、痛いわよ」
「ごめんなさい。でも、絶対に動かないでください。下手に動いたら
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