623 お使い山賊退治
町役場にやって来たよ。
正面から入ってすぐにカウンターがある。
普通なら大勢の役人さんが業務を行ってるはずなんだけど……
「うーん、うーん」
なぜか今はおじさんがひとりだけ。
カウンターに頬杖をついて、うんうん唸っていた。
「あの」
「うーん、困った……」
遠慮がちに話しかけてみたけど、上の空でまったく聞いてくれない。
「あの! ちょっといいですか!?」
「ん?」
思い切って大声で呼びかける。
おじさんは私に気付いて顔を上げた。
「なんだ、こんな時期に転入希望者か? 奇特な娘だ……」
「いえ、そうじゃなくて、人を探して欲しいんです。別の町で手紙を預かったんですけど、渡す相手がどこに住んでるのかわからなくて」
「なんだそんなことか……それにしても、困ったなあ……」
おじさんは生返事だけをして、またお悩みモードに入ってしまった。
なんなのこの人。
ここ町役場ですよね。
苦情コーナーはどこかな?
「実はいま、この町は山賊の脅威に晒されていてな……」
なんか語り始めたし!
「西側で唯一の流通路を山賊に押さえられ、まともな物資が入って来なくなってしまったのだ。東西の両大国がエヴィルの侵攻を受けている影響もあって都の輝士団は当てにならん。噂では封じられた伝説の魔物が復活の兆候を見せているらしく、人々の不安は増すばかり。どうにもこうにもならんのだ」
「そうですか、それは大変ですワね」
「同僚達はみな治安維持対策本部にかり出されていて仕事にもならん。せめて山賊だけでも
あれ、これもしかして私に行ってこいアピール?
「どうしよう、スーちゃん……」
「いい考えがあるぞ。手紙を渡すのを諦めて、さっさと次の町へ行け」
それも魅力的な提案ではあるけどね。
うーん、山賊かあ……
放っておくのも目覚め悪いしなあ。
「その山賊が出るのってどの辺りなんですか?」
「おお! 旅の輝術師様が山賊を退治しに行ってくださるというのですか!?」
まだそんなこと言ってませんけど。
「にっくき山賊めらはセアンス共和国方角の山中に潜んでいます。街道を通る人間を無差別に襲い、金目の物を奪ってゆく悪逆非道な者たちです」
飛んで行くなら関係ないけど、一応は進行方向の途中だ。
どれ、新式流読みで
十秒で結果が出ました。
「いますね。全部で十九人、これは洞窟の中かな?」
「は?」
「それじゃ、ちょっと退治してきますから、この手紙をお願いします。裏に名前は書いてあるけど、国境を越えてすぐのマール海洋王国の町に親戚が住んでいる人です」
これも人助けだと思って、一働きして参りましょう。
※
というわけで、山の中までやって来たよ。
空を飛んで山賊のアジト〈らしい人が集まってる場所〉までやってくる。
気配近くの崖の上に着陸。
大岩の間にぽっかりと口を開いた洞窟があった。
流読みで中を調べれば、山賊たちの気配がありありと感じられる。
さて。
「どうしよっか」
「考えてなかったのかよ」
「だってさ」
気配を探る限り、それほど強いやつはいない。
本当にただ荒々しいだけの山賊の集まりみたいだ。
はっきり言ってやっつけるのは簡単。
でも人間だし、エヴィルと違って問答無用でころすわけにもいかない。
「みんなが困ってるから山賊行為はやめてくださいって言えばやめてくれるかな?」
「おう、きっとやめてくれるぞ。やってみろ」
またスーちゃんは適当なこと言って。
冗談で言っただけだからね。
「
「それはさすがにないかな……」
いくら極悪人だとしても、人をころすのはちょっと躊躇うよ。
もしかしたら深い理由があって仕方なく山賊をやってるだけの良い人かもしれないし。
「何にせよ、最低限の脅しは必須だ。力を見せなきゃ誰も言うことなんて聞いてくれない」
「それもそうだね」
それじゃ、いっちょやりますか。
「
私は紅い蝶を三つほど作り出して、それを洞窟の中に向かわせた。
着弾と同時に燃料をぶちまける、なかなか消えない炎の術だ。
山賊が集まっている手前に紅蝶を落とす。
洞窟の幅を計算して、出口を完全に防ぐ形で。
「うおっ!」
「なんだ、敵襲か!?」
山賊たちがパニックになる声が聞こえてくる。
私は洞窟の前に降り立ち、ゆっくりと中に入っていった。
「何者だ!?」
「あ、その炎を無理やり越えようとすると、燃料が付着して体に燃え移りますよ」
私の姿を見るなり身を乗り出してきた山賊に警告する。
「質問に答えろ、テメエは何者だ!」
「さっさとこの炎を消しやがれ! ぶっ殺すぞ!」
「オレらのアジトに乗り込んできて無事で帰れると思ってんのか!?」
彼らはみんな頭に茶色い布を巻いた、いかにもって感じの山賊集団だった。
セリフもお約束で頭の悪そうなただのチンピラみたい。
「通りすがりの輝術師です。町の人たちが迷惑してるので、略奪行為はすぐに止めてください。じゃないと、やっつけますよ?」
上手い脅しの言葉なんて思いつかないので、とりあえず一方的に要求を告げてみる。
すると山賊たちは顔を見合わせて、なぜか一斉に大笑いし始めた。
「なーに言ってんだこのアマ! バカか!?」
「テメエみたいなガキが、ひとりで何ができるってんだ!」
「オレらを『邪龍覇王団』だってわかって言ってんのか!? あぁ!?」
予想はしてたけど、やっぱりダメだった。
っていうかすごい名前だな山賊。
「おいラング、さっさとこの火を消せ!」
「へい!」
命令を受けた山賊のひとりが奥から布きれを持ってきて、地面で燃えている火に被せる。
「熱ちいいいいぃぃぃぃーっ!?」
その瞬間、火は布に移って燃え上がり、それを持っていた山賊の手も焼いた。
「ラング、大丈夫か!?」
「熱ちい! 熱ちいよーっ!」
「ちくしょう、どうなってやがんだ!?」
だから言ったのに。
人の話を聞かないから。
「それ、輝術で作った火だから、私が消えろって思わなきゃ消えないですよ」
「じゃあさっさと消しやがれ!」
なんでよ。
「消したら山賊をやめてくれる?」
「うるせえ! さっさと消さないとぶっ殺すぞ!」
あ、ダメだこの人達。
さっぱり話が通じない。
ふと、視界の隅にボウガンを構えた人が見えた。
山賊のひとりが炎の向こうから私を狙い撃とうとしている。
「
「ぐほっ!?」
そいつの前に黄色い蝶を作って体に当てる。
瞬間、山賊はものすごい勢いで吹き飛んで、背後の岩壁に叩きつけられた。
「おい、あれって直接当てて大丈夫なのか?」
「大丈夫。当てる相手の重さによって加速度が変わるから」
盛大に壁に叩きつけられた山賊は意識こそ失ったものの、体がバラバラにもなってないし、呼吸もちゃんとしている。
あくまで当てた方向と逆に強制的に『加速』させる術だ。
指で挟めるサイズの石ころなら岩をも破壊する弾丸になるし、実質的な重さのない別の輝術なら十キロ先にも届くほどの勢いで飛び出すけど、普通の成人男性の体重ならせいぜいあんなもの。
「というわけで、怪我したくない人は山賊をやめるって誓ってくださいね」
「わかった、誓う! もう悪いことはしねえって誓うよ! だからラングの腕の火を消してくれ!」
お、意外と物わかりがいい。
私は指をぱちんと鳴らした。
瞬間、床と山賊の腕を燃やしていた炎が煙のように消える。
火傷はかなり酷いことになってるけど、治療すればすぐに元通りになるはずだ。
「それじゃ、火傷を治すので――」
「けっ、バカめ!」
私が火傷をした山賊に近づこうとすると、なんと別の山賊たちが武器を持って、全員で一斉に襲いかかってきた。
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