617 魔王の娘VS夜将

 三連砲撃ファイア×6 

 風路構築リロード

 流読誤差修正エイミング

 三連砲撃ファイア×6

 司令蝶再指示リオーダー

 黒蝶補充リプレニッシュ

 風路構築リロード……


「ほとんど一人軍隊ワンマンアーミーだな。上手くいけばこのまま――」

「あっ」

「どうした?」

「気付かれたみたい。桃色蝶ローゼオちゃんがひとつやられた」


 夜将がこちらに向かって飛んでくる。

 黒蝶爆炎弾ネロファルハを受けながら、ものすごいスピードで。


「んじゃ、ここからが本番だな」

「うん」


 残った桃色蝶ローゼオちゃんのうち、みっつは敵アジトへの砲撃を続行。

 アジト付近に待機させたもうひとつは、引き続きエヴィルの雑兵を見つけ次第、白蝶閃熱弾ビアンファルハで狙い撃ちさせる。


 すでにエヴィルの数は四万以下にまで減っている。

 このままアジトを瓦礫の山にするまで攻撃を続けるよ。


 私はふたつの司令桃蝶弾ローゼオファルハと一緒に、砲撃の狙いを夜将に集中。

 こっちに辿り着く前に可能な限り敵の体力を削っておく。


 三連砲撃ファイア×6 

 風路構築リロード

 流読誤差修正エイミング

 三連砲撃ファイア×6

 ……


 ダメだ、削りきれない!

 夜将は砲撃をまともに受けながらも構わず突っ込んでくる。

 与えられるダメージはわずかで、すでに敵との距離は五キロ以内にまで入っている。


 作戦変更。


 私は閃熱フラルの翼を広げた。

 飛び上がり、正面を向いたまま後方に下がる。

 周囲に展開する黒蝶爆炎弾ネロファルハも限界の二五七まで補充する。


「接近戦じゃ絶対に敵わないぞ。とにかく夜将を近づけず、このまま物量で押し切ってやれ!」

「おっけー!」


 流読みで狙いをつけて黒蝶を飛ばしていく。

 加速は必要ない、とにかく撃ちまくる。

 夜空に無数の爆炎の華が咲く。


「……!」


 爆音に紛れてかすかな声が聞こえてきた。

 夜将が何かを必死に叫んでるみたい。

 もちろん相手にする気はない。


「撃て撃て、撃ちまくれ!」


 スーちゃんも興奮気味に叫んでる。

 私は力の続く限り黒蝶爆炎弾ネロファルハを打ち続けた。


 けど。


「ダメ、押しきられる……!」


 これだけの攻撃にも関わらず、夜将は次第に距離を詰めてくる。

 並のエヴィルなら一撃で倒す黒蝶爆炎弾ネロファルハも、一発一発はさほど効いてない。

 さすがにビシャスワルトで四番目に強いエヴィルだけあって一筋縄でいく相手じゃない。


 やがて夜将が、その怒りの表情がわかる所にまで近づいてきた。


「ようやく見つけたわよ、お嬢様……!」


 振り上げた腕から伸びた刃のような爪が爆光を受けて煌めく。

 私は即座に爆撃をやめて別の戦法に切り替えた。


毒煙紫蝶弾ヴィオラファルハ!」


 七つ目の新技、紫色の蝶。

 それが、瞬く間に辺りに拡散していく。

 六五の紫蝶がすべて煙と化して一帯の空間を覆う。


 毒煙紫蝶弾ヴィオラファルハ

 これは毒の煙を発生させる術だ。

 人間なら即死、エヴィルでも数秒で行動不能にできる。


「くそっ、小癪なマネを!」


 けど、夜将相手には目眩まし程度の効果しかない。

 それでも視界を奪えるだけで十分だ。


閃熱白蝶弾ビアンファルハ!」


 私は紫煙の中を飛びながら、二五七の白蝶閃熱弾ビアンファルハを展開。

 流読みを頼りに夜将を狙って撃ちまくる。


「うっ、ごおおおおおっ!」


 紫煙の中から夜将の呻き声が聞こえた。

 あいつにとっては閃熱フラルですら蚊に刺された程度かもしれない。

 でも何発、何十発、何百発も打ち続ければ、さすがにダメージは蓄積するはず!


 逃げ回り、飛び回りながら、私は力の続く限り攻撃を続け――


 周囲の煙の動きがゆっくりになる。

 その理由に気付くのが少し遅れてしまった。


「……あっ?」

「いつまでも調子に乗ってんじゃねえよ、クソガキがァ!」


 危険察知による、自動的な時間感覚のスロー化。


 夜将の顔がすぐ眼前にあった。

 彼女の腕はすでに振り抜かれている。

 その爪の先から、鮮血が飛び散っていた。


 私の体はお腹と胸の辺りで切断された。

 血と内臓をばらまき、三つに分かれた体が、くるくると回転し……


 光を放つ。


「なっ!?」


 足と胴体部分は消滅して輝力に変化。

 胸から上を核にして失われた体を再生する。


「ふわっ、危ない危ない!」


 すっかり元通りになった私は、即座に紫煙の中に身を隠した。




 ※ 治癒術 その一八


 オート・ヒーリング。

 対象がダメージを受けた場合に、自動的に発動して自己治癒を行う。




「あらかじめ準備してなかったらヤバかったね」

「それはいいけどお前、バラバラにされたのに即復活とか、ますます化け物じみていくな」


 ばけものとか言うな!

 ちょっと魔王の力を持ってるだけの、普通の女の子ですよ。


 とにかく、やっぱり夜将は油断できるような相手じゃない。

 一方的に攻めているつもりでも、気を抜いたら一瞬で殺される。


 エビルロードと戦った時と同じだ。

 とにかく攻めて攻めて、型にはめて削り倒すしかない。

 あの時は五人でやったことを、今度は私ひとりでやる、それだけだ。


 けど。


「オラアアアァァァ! コソコソ隠れてねえで出て来いやヒカリイイイィィィ!」


 私は弱いから。

 きっと、あんな風に上手くはできない。


「そこか……!」


 紫煙の中にわずかな切れ目が生まれる。

 その直後、夜将の体が無数のコウモリに変化した。


「切り刻んでもダメなら――」


 周囲の動きがスローになる。

 夜将は私の背後で元の姿に戻る。

 その手の中に圧縮された炎の塊があった。


「全部、燃え尽きちまいな! 魔妖破爆炎弾ナイトフレイムボンバー!」


 ただの爆発じゃない。

 超高熱の炎が爆発的に膨れあがる。

 まるで閃熱フラルの塊のような、強烈な熱気が私の身体を飲み込んだ。


「くはっ! さすがにコレは再生できねえだ……ろ……?」


 だけど、その攻撃は私の身体は届かない。

 今度はしっかり防御が間に合った。


 半透明の薄緑の球体が、私の周囲を守っている。


 防陣翠蝶弾ジャーダファルハ

 八色の蝶の最後の技、翠色の蝶。

 あらゆる攻撃から身を守る防御のための術だ。


「アタシのとっておきを防いだだと……!?」

「残念でした。そんなの効かないよーだ」


 特殊な構造で硬質の輝力を重ねている。

 これは簡単に破られるようなものじゃないんだよ。

 結界に守られた状態じゃ動けないって欠点もあるんだけどね。


 攻撃を凌いだ私は再び紫煙の中に身を隠した。

 敵から一〇〇メートル前後の距離を保ちつつ、全方位からの白蝶閃熱弾ビアンファルハで夜将の命を削っていく。


「クソがァ! 正々堂々と勝負しろやァ!」

「やだよ」


 まだだ、まだ足りない。

 もっと強く、もっと多く。

 もっと速く、もっと大きく。


「お、おい。ルーチェ……?」


 私は決めたんだから。

 ビシャスワルトの侵略から人類を救うんだって。

 だから、に苦戦してちゃダメだ。


 こんな――


「あぐっ」

「つーかまーえたーあ!」


 夜将の爪が私の胸とお腹に突き刺さった。

 敵は歓喜の表情で私の内臓をぐちゅぐちゅとねぶる。


「もう魔王様の娘とか知るか、テメエはここで殺して――あ?」


 爪に体を貫かれたまま、私は夜将のお腹に右手を添えた。


「テメエ、なにす――」


 やっぱり持久戦も、知能戦も、私には無理。

 だからもう、一気に決めてやろう。


「ひっ!?」


 受けてみなよ。

 八色の蝶とは、また別の……

 神話映像を参考に再現した、私のとっておきの技。


「な、なんだ!? その、莫大なエネルギーは!」

「全力で行くよ。覚悟してね」

「や、やめ……うわああああああっ!?」

極覇天垓爆炎飛弾ミスルトロフィア!」


 以前に先生が使っていた技の模倣。

 淡い翡翠色に輝く光の矢が夜将の体に突き刺さる。

 それは敵を音の速さで敵を遙か遠くへ吹き飛ばしてしまった。


 絶叫はあっという間に聞こえなくなる。

 夜将の姿はもう見えない。

 その直後。


 星のない夜空に、太陽にも似た光が生まれた。

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