596 私がリーダー?

 ぐりぐりー。

 ぐりぐりー。

 にゅぽっ。


「やった、とれた!」


 頭にくっついていたツノがようやく取れました!

 ……なんか、根っこみたいなのが生えてうぞうぞ蠢いてるね。

 とてもキモチワルイから、放り投げて閃熱白蝶弾フラル・ビアンファルハで焼き尽くしておく。


 スーちゃんの言うとおり、ツノは輝力的な力でくっついてたみたい。

 試しに輝術中和レジストしてみたら簡単に取れたよ。


 あとは頭に開いた穴を治療して、どぽどぽ流れてる血を洗って、元通り!


「いや、危なかったな。もう少し気付くのが遅かったら脳をやられてた」

「気付いてくれてよかったよ……」


 あのツノ、ビシャスワルト人にとっては単なる頭飾りであって、直接的な害はない。

 けど、人間に寄生すると脳を壊されて人格を乗っ取られるんだって。

 ほんとシャレになってなかったね。




   ※


 というわけで、さり気ない大ピンチを脱したわけですが……

 町に到着した翌日の昼過ぎになっても、私たちはまだ出発していない。


 助けた八人の女性たちは今、手分けして町中の捜索をしてる。

 亡くなった人の遺品とか、これから使えそうなモノを探してるみたい。


「まだ終わらないのかなー」

「近くにエヴィルの気配は?」

「ぜんぜんないよ」


 急ぐわけじゃないから、いいんだけどね。


「これは良くないな」


 側の瓦礫に腰かけていたアグィラさんが呟いた。


「どうしたんですか?」

「出発前に少し話し合っておいた方が良いかもしれんぞ」


 難しい顔で彼は言った。

 ちょうどその時、レトラさんが戻ってくる。


「お待たせしました」


 レトラさんはシスネちゃんのお母さん。

 彼女は片方しかない腕で器用に大きな籠を抱えていた。

 その隣には寄り添うように小さな箱を持ったシスネちゃんもいる。


「他の方々は?」

「まだ町の方におります」

「失礼ですが、少し時間が掛かり過ぎでは?」

「え? あ……も、申し訳ありません」


 アグィラさんはなんとなく怒ってる様子。


「町の方々の代表は貴女ということで良いのですよね」

「は、はい。一応、最年長者ですので」

「ならばしっかり言って聞かせてくれなくては困ります。今後は数分の遅れが全体の危機に繋がる可能性もあるんですよ」

「も、申し訳ありません……」

「ちょ、ちょっと待って下さい、アグィラさん」


 突然の険悪な雰囲気にびっくり。

 私はとっさに二人の話に割って入った。


「いまエヴィルは近くに居ないし、そんなに急がないでも大丈夫ですよ。ほら、みんなも思い出の詰まった町を仕方なく出るわけだし、ちょっとくらい時間が掛かっても仕方ないと思いますけど?」


 私がそう言うと、彼は気まずそうな顔になった。


「君の言うこともわかるが……」

「いや、これはおっさんが正しいぞ」


 スーちゃんまで、どうしたのよ。


「なるほど。確かにこりゃ、しっかり話し合っておいた方がいいな」

「話し合うって、何を?」

「今後の方向性とか、いろいろさ。とりあえず……あんた」

「は、はい」


 レトラさんは籠を地面に置いて姿勢を正した。

 明らかに人間じゃない空飛ぶ小人のスーちゃんに少し怯えてるみたい。


「テーブルと椅子があって、ちゃんと壁が残ってる部屋に案内してくれ。できたら、この国の地図なんかもあるとありがたい」




   ※


 というわけで、近くの家にやって来ました。

 元々は何かのお店だったらしく、店頭には空の棚が並んでる。


 町の建物の大半がエヴィルに壊されている中、ここは比較的きれいなまま残っていた。

 奥にはちゃんとテーブルと三人分の椅子があった。


 集まったのは私、レトラさん、アグィラさん、スーちゃん。

 シスネちゃんは他の人たちの手伝いに行っている。


「さて、ふがいないリーダーに変わって、アタシがとりあえず司会進行をさせてもらう」


 全員が席に着くと、スーちゃんはそう言った。

 ふがいないリーダーって誰のことだろうね。


「さて、ルーチェ」

「スーちゃんが名前で呼んでくれた!」

あたしたちの今後の目的はなんだ?」


 さらっと流されたよ。

 別に良いけどね。


「えっと……魔王をやっつけること?」

「いきなりかよ。そうじゃなく、とりあえず次にすべき目標だ」


 次にやること?

 町を出発したら……


「みんなを安全な場所に連れて行くこと……かな?」

「そうだ。しかも、できる限り戦闘を避けてな」


 激しい戦闘になったら皆が危険だし、私の輝力の問題もあるからね。


「じゃあ次の質問。目的の場所に向かう人数は?」


 私が助けた町の人たちが八人。

 アグィラさんと子ども二人で十一人だから、


「私とスーちゃんを入れたら十三人だね」

「おっさん。安全な場所ってのは、ここからどれくらいで着く? 大体でいい」

「子どもがいることを考えて、隠密行動が必須となれば……」


 残念ながら、スーちゃんが欲しがってた地図は町には残ってなかった。

 アグィラさんは紙に数字を書いて計算し、質問の答えを出す。


「島嶼部へ渡るための海岸まで、およそ一ヶ月半くらいか」

「えっ、そんなに掛かるんですか!?」

「エヴィルの出没状況次第ではもっと掛かる可能性もある」


 数日から一週間くらいでなんとかなると思ってたよ……


「ぶっちゃけた話、人数が多すぎるんだ。しかも、ほとんどが旅慣れしていない女子供ばかり。おまけにみんな好き勝手に行動して、まったく統制が取れてないときた。町から出るのすら半日もかかってるんじゃ、おっさんもこの先が思いやられるだろ」

「……否定はしない」

「この調子で移動中にまで勝手なことをされてみろ。最悪、まともに目的地に向かうことすらできなくなる。リーダーの声にキッチリと全員が従うシステムを作らないと、長旅なんてやってられないぞ」


 な、なるほど。

 みんなで目的を持って行動する以上、好き勝手にさせてちゃダメってことか。

 強いリーダーシップを取ってくれる全体のまとめ役が必要ってことだね。


「じゃあ、アグィラさんにリーダーをお願いしますね」

「え?」

「は?」

「えっ」


 スーちゃんとアグィラさんが同時に私を見る。


「いや、リーダーは君だろう?」

「いやいや、私にリーダーとか無理ですから」

「……あのな、ルーチェ」


 なによスーちゃん、なんでそんなダメな子を見るような目で私を見るの?


あたしたちはこれから、エヴィルが支配する地域を抜けていく。そのために必要なのは索敵能力と戦闘力だ。ここまではわかるな?」

「わかるよ」

「そのどちらもお前だけが頼りなんだよ」

「でも、リーダーまで私がやる必要はなくない?」


 むしろ役割の分担を考えたら、やらない方がいいよね。

 戦ったり、エヴィルの接近に気付いて教えるのは私がやるよ。

 だから旅の方針は大人のアグィラさんが決めてくれた方がいいと思う。


「じゃあ、こう考えてみろ。おっさんが一行のリーダーになったとしてだ」

「うん」

「途中で何らかの事情でシスネが邪魔になって、その場に置いて行くと判断した。お前はどうする?」

「アグィラさんはそんなことしないよ!」

「もしなったらと仮定しての話だって言ってんだろ」


 わかったから怒らないでよ。

 そんな状況、考えたくもないけど……


「もちろん反対するよ。決まってるじゃない」

「だそうだ。そしたら、おっさんはどうする?」

「従うしかないだろう」

「だろうな」


 意味わかんない。

 つまり、何が言いたいの?


「これは生きるか死ぬかの話なんだ。特にお前以外の全員にとっては、本当に深刻な問題なんだよ。他の誰がいなくなっても問題ないが、お前がいなくなれば、その時点で確実に集団は崩壊する」

「もちろん方針を考える手助けはしよう。だが、最終決定権は常に君になくてはならない」

「私が一番の重要人物だから、リーダーもやらなくちゃいけないってこと?」


 納得いかない感じで眉根を寄せていると、スーちゃんは私にこう反論した。


「重要人物どころじゃない。お前が十一人全員の命を預かってるんだよ」

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