590 町の解放

 と、いうわけで……


「やっぱり町を支配してるビシャスワルト人をどうにかしないとダメかなあ」

「ダメだろうな。そもそもあれだけの数を連れて逃げられないだろ」


 小屋の外で私はスーちゃんと話し合った。

 バレないようにみんなを連れて逃げるのは難しそう。

 なので、あいつらを追いして町を開放するしかないみたいだ。


「できれば自主的に出て行ってもらいたいなあ。すごい大声を出せる術とかってある? イグ系統かウェン系統で」

「それならこんなのがあるぞ」




 風拡声ウェン・スピーカー

  遠くまで声を伝える輝術。音量調節自由。

  用途・演説など。




あたしは問答無用で全滅させた方が早いと思うけどな」

「それは最後の手段ね」


 術の概念さえわかれば、あとは想像で適当に真似すればできるはず。

 閃熱の翼を広げて、一番高い時計塔の上へ移動する。

 私は声を風に乗せて町中に伝えた。

 せーの。


『この町にいるビシャスワルト人のみなさーん!』


 おおっ。

 すごく遠くまで響くよ。

 あんまり大声を出してないのに、すごい。


『えっと……』


 ところで、何を言おう。


「どうしよう、なんて言えばいいかな」

「まずちゃんと考えてから喋れよ」


 拡大音声をオフにしてしばしスーちゃんと作戦会議。


「この町から出て行って下さい、でいいと思う?」

「絶対に出て行かないと思うけどな」

「しにたくなければ出て行け! とか?」

「確実に逆上して襲いかかってくるな。というか、そんなに殺したくないのか?」

「そういうわけじゃないけど……」


 人間たちに酷いことしたビシャスワルト人なら別にころしてもいいと思う。

 けど、中には悪い事をしてないビシャスワルト人もいるかもしれない。

 問答無用で大量さつりくをするのは、ちょっと嫌だね。


「んじゃ、アンケートでも取ってみれば」


 スーちゃんは時計塔の下の広場を指さした。

 そこには牛面族のひとたちがゾロゾロと集まっている。

 流読みで調べた感じ、町にいるビシャスワルト人の大半が集まったっぽい。

 

「なんだ、テメェは!」

「いきなり大声出しやがって! うるせえんだよ!」


 なんかちょっと殺気立ってるし。

 まあいいや、じゃあ聞いてみよう。


『えーと、この中で人間に酷いことしたことある人、手を上げて-!』


 誰も手を上げない。


「まさか、みんないいひとなの……?」

「お前はバカなのか」

「冗談だよ」


 じゃあ質問を変えてみよう。

 ちょっと脅しも混ぜて。


『次、人間に酷いコトしてないってひとは、手を上げて下さーい!』

「意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ!」

「いいから降りてこい!」

『もし、酷いことしてるひとは――』


 時計塔の真下。

 私に向かってヤジを飛ばしていた牛面族たち。

 その周囲に三十三の白蝶を展開、に向かって閃熱フラルの光を放つ。


 光の柱が立ち並び、地面の石畳に三十三の穴を穿つ。

 広場に集まった牛面族たちは一斉に押し黙った。


『やっつけちゃうので、しにたくなかったら出て行ってね♪』


 そして沈黙。

 ……何か言って欲しいな。

 ポーズまで決めた私がばかみたいだよ。


「ふっざけんなァ!」

「降りて来いやコラァ!」

「おわっ」


 一転して怒号が飛び交ったよ。

 あらら、脅しは効いてないみたい。


「ここは牛面族の町だ! テメエにとやかく言われる筋合いはねえんだよォ!」

『いや、元は人間の町でしょ! 酷いことしちゃダメだよ!』

「うるせえェ! ヒトなんざ所詮は家畜だろうがァ!」

『……みんな、そういう風に思ってるの? 全員が酷いことしてるの?』

「ったりめえだボケ! わざわざこっちの世界まで来て、あんな楽しいオモチャで遊ばないバカがどこにいるってんだ!」


 ああ……

 言っちゃったね。


『それじゃ、しかたないね』


 私は自分の周囲十メートル四方に六十五の白蝶を展開する。

 こいつらが人間の敵なら、遠慮無くやっつけるしかない。


 戦闘開始。


 ふわり、と時計塔から飛び降りる。

 閃熱の翼を広げ、重力に牽かれるよりも速く落下。

 それ以上のスピードで白蝶を先行させ、眼下の牛面族を貫いた。


「ぐぺっ」

「あぎゃ」


 敵一体につき、五つずつの閃熱フラルの光が、前後左右と上から襲いかかる。

 瞬く間に四体をエヴィルストーンに変えた私は地面の直前で急停止。

 ついでに背後の一体を閃熱の翼で薙ぎ払っておく。


「は……?」


 撃ち出した白蝶は即座に補充。

 視界内にいる牛面族は残り二十体。

 流読みで全員まとめて照準を定めるロックオン


「ちょ、ちょっと待て、なんなんだよお前――」


 全弾発射。


「いけーっ!」


 六十五の白蝶が四方に散り、それぞれバラバラの軌道を描いて飛んでいく。

 目標に近づくと、白蝶は超高熱の光の矢となって敵を貫く。


「ぐげっ!」

「ぎゃっ!」


 正確に頭、左胸、右腕を。

 うち五体はさらに腹部も貫く。


 広場にいた牛面族はあっという間に全滅。

 私の周囲に二十五のエヴィルストーンが転がった。


「一体につき三発でも十分だね」

「たぶん頭と心臓の二発でも行けると思うぞ」


 さて、とりあえず集まった敵は全部やっつけたわけだけど……


 流読みを周囲に広げる。

 延長した感覚が町全体を覆う。

 念のため町の外の半径数キロもカバー。


 周囲にいる生き物の数……


 牛面族が三十二。

 正体不明の大きなやつが一。

 人間がさっきの所に六と、それぞれ別の場所に二。

 うち片方は町の外で隠れてもらってるラスティさんだ。


 それからたぶん、クインタウロスと思わしき獣人型のエヴィルが三〇体。

 キュオンか、もしくはそれに類する動物型のエヴィルが一五体。

 前者は町中でバラバラに、後者は一箇所に集められている。


 牛面族はぜんぶ敵ってことでいいよね。

 話の通じない獣人型と動物型もやっつけておきたい。

 それから、連れ回されてる残った人の保護は最優先でやらなくちゃ。


「さあ、町からエヴィルを追い出すよ!」




   ※


「あん? なんだテメ――ぶげっ」


 残りの人の所に向かう途中、出会った牛面族は即座にやっつける。

 気の毒だけど、もう話し合いの余地はないからね。


 あ、女の子を連れ回してるやつ発見。


「おらおら、もっとキビキビ歩けェ!」

「お、お願いします……もう、腕が痛くて……」

「うるせェ! 家畜は家畜らしく四つ足でげっぽお!?」


 十七つの白蝶で囲んで牛面族の上半身を吹き飛ばす。

 私は首輪を鎖で繋がれた女の子に駆け寄った。


「大丈夫?」

「えっ、あ、あなたは……?」

「レジダンスだよ。すぐ外してあげるからね」


 指先で微調整した閃熱フラルで首輪を焼き切る。

 よし、これで町の人は全員救出完了したね!


「歩けるかな?」

「は、はい」

「それじゃ適当な建物の中に隠れてて。ぜんぶ終わったら助けに来るから」

「えっ? 終わったらって……」

「おいコラ、なにやってんだテメェ!」


 そうこうしてるうちに牛面族が集まって来たよ。

 あれ、似てるけどちょっと違うのも混じってる。


「あ、クインタウロスだ」

「ビシャスワルトでは牛奴って呼ばれてる家畜だな」

「牛面族とそっくりだよね。ツノの形が少し違うくらい?」


 あと、ちょっとだけ牛面族の方が表情が人間に近いかな。

 どうでもいいけど。


 助けた子が近くの家に隠れるのを横目で確認。

 広々とした周囲に六十五の白蝶を展開する。


「一度に出せる数はそれで限界か?」

「うーん、全力でやればまだまだいけると思うよ」


 スーちゃんと会話しつつ、流読みで狙いを定め、一斉に発射。

 前を見なくても白蝶は自動的に敵へ向かって行く。

 牛面族も牛奴もまとめて灼き貫いた。


 それから、向こうの角に隠れてチャンスをうかがってる集団もついでに一網打尽ね。


「お前、やるなあ……力に目覚めたばっかりだってのに」

「二代目閃炎輝術師フレイムシャイナーですから」

「どっちかっていうと閃光輝術師ビームシャイナーって名乗った方が良いぞ」

「カッコ悪いから却下で」


 敵をやっつけながら、余裕でお喋り。

 そんな私たちの前に巨大な影が立ち塞がった。

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