462 一緒に旅したともだち
途中で何度か休憩を挟みながら、私たちの空の旅は続く。
フレスに時々交代してもらう以外は基本的に私が操縦して、ずーっと飛びっぱなし。
いちど高い岩山にぶつかりそうになってからは、前を見なきゃ危ないと気づいて、できるだけ下を見ないよう遠くを眺めながらがんばった。
がんばった。
一日目の夜は大きめの町に泊まった。
ベッドに入ってもふわふわした感覚が続いてた。
そして二日目の夕日が沈む頃。
シュタール帝国の帝都アイゼン上空にまでやって来た。
天を突くようにそびえ立つ
今の私たちはそれよりずっと高いところにいるんだよね。
「ここまで、あっという間でしたね」
フレスが眼下の街を見下ろしながら感慨深そうに呟いた。
うん、半年近くかけて旅して来たのに比べれば、あっという間だったんだろうけどね。
私にとっては永遠みたいに長く感じた二日間だったよ。
まじで。
「本当に村まで行かなくていいのか?」
ジュストくんがフレスに確認する。
二人の故郷はシュタール帝国とファーゼブル王国の間にある、小国クイント。
そのさらに山奥にある小さな村だ。
ジュストくんはファーゼブル王国の王様に謁見する予定だから帰らないけど、フレスはてっきり故郷に帰るもんだと思ってたんだけど……
「急いで帰っても仕方ないし、スティを迎えにいかなきゃいけないからね」
スティっていうのはフレスの妹。
田舎暮らしを嫌っていたおてんば娘だ。
こっそり村を抜け出したフレスを追って帝都アイゼンにまでやって来て、事件後もそのまま住み着いてしまったらしい。
なんでも輝士見習いになろうと考えているとか、いないとか。
「そっか。じゃあ、ここでお別れなんだね」
適当に降りられるところを探し、ゆっくりと降下する。
街壁の見張りさえやり過ごせば空からの侵入は簡単だった。
まあ、フレスなら衛兵に見つかってもなんとかできるでしょう。
建物の間にある空き地に着陸。
立ち上がろうとして、よろけた。
そんな私をフレスが支えてくれる。
「お疲れさまでした」
「ううん」
そのまま私たちは向かい合い、繋いだ手に力を込める。
「村に戻っても元気でね。スティにもよろしくね」
「はい。ルーチェさんもがんばってください」
「フレスがいてくれて、楽しかっ……」
うわ、やば。
胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。
何度経験しても、一緒に過ごしてきた仲間との別れは辛い。
最初に彼女が村を飛び出して私たちに着いてきた時はびっくりした。
けど、フレスがいてくれて良かったと思ったことは何回もあった。
女の子同士、輝術師仲間で、私のともだち。
「やだ、泣かないでください。こっちまで悲しくなっちゃいます」
言われて初めて、私は涙を流していたことに気づく。
私はフレスを思いっきり抱きしめた。
「げんきでね……」
「はい……」
しばらくそうやって抱き合っていたけれど、やがてどちらからともなく離れ、涙を拭ってにっこりと微笑み合う。
「またねっ」
「はい、いつか必ず」
フレスは手を振り、背を向け歩いて行く。
その姿が見えなくなると、私はジュストくんの方を振り返った。
「さあ、ファーゼブル王国に向かおう!」
悲しさを振り切るようできるだけ元気を込めて言う。
また会おうね、フレス。
※
さすがに絨毯の操縦も慣れてきた。
クイント王都の上空を横切った時、ビッツさんのことを思い出した。
セアンス共和国で別れてからまだ一週間くらいだし、きっと私たちが追い越しちゃったね。
まもなく、ファーゼブル王国の領土に入った。
王都エテルノが見えてくる。
実を言うと、私は王都には行ったことがない。
輝士になったベラお姉ちゃんは元気でやってるのかな?
「北側に広い公園がある。そこなら衛兵に見つからず着陸できると思うよ」
街壁を越え、ジュストくんの誘導に従って飛ぶ。
ジュストくんがヴォルさんからもらったのは王様への謁見許可証だけ。
王都エテルノへの立ち入り許可書はなかった。
まともに手続きしてたら、今日の予定時間に間に合わないかもしれない。
王様に会うっていうのに不法侵入しなきゃいけないなんて……
不思議な状況というか、先生があまりに杜撰なのか。
白の生徒の特権を解除したの忘れてるのかな?
「この辺りなら大丈夫だね。適当なところで降ろしてよ」
「うん」
言われたとおりの公園に着陸。
茂みの中に降りたので、誰にも見つかっていないと思う。
この辺りは隔絶街の近くでもあるので、あんまり衛兵隊は立ち寄らないみたい。
「お城からはかなり遠いみたいだけど、いいの?」
「うん。この辺りは慣れてるし、今日の午後までに王宮に辿り着けば良いから時間は十分にあるしね。実際に国王陛下に謁見するのは明日になると思うし」
周りの建物はずいぶんとボロくて、治安も悪そう。
でも、ジュストくんなら悪者に襲われても問題ないよね。
それより、ちゃんとお城まで辿り着けるかどうかが心配なんだけど。
「輝士学校時代はこの近くに住んでたんだ。学校は城の近くだし、毎日通ってた道を通るだけだから、大丈夫だよ」
私の心を読んだわけじゃないだろうけど、ジュストくんは胸を張って言った。
まあ、さすがに長く暮らしてたところなら大丈夫だと信じよう。
っていうかお城、ここから見えてるし。
「ルーはこれからどうするつもり?」
「うーん」
ジュストくんと一緒に行っても、王様に謁見している間は外で待ってなきゃいけない。
暇つぶしにベラお姉ちゃんを探すにしても、どこに住んでるかわからないし、広い王都で偶然会える保障もない。
それにお姉ちゃんは正式な輝士だから、下手したらこの時間はお城の中にいるかも。
さすがに私用でお城の中に入るわけにはいかないよね。
王都観光っていうのも考えたけど、せっかくここまで帰ってきたんだから、やっぱり……
「フィリア市に戻ってみようかな」
半年ぶりの帰郷。
思いついちゃったら、どうしても戻ってみたくなった。
ナータや学校のみんなは元気かなあ?
もうすぐ二年生も終わる頃だよね。
みんな変わってないといいな。
……さすがに忘れられてたりはしないよね?
「じゃあ明後日の正午に、またこの場所で集合でいいかな」
帰りの時間を考えると、それくらいが限界かな。
ジュストくんの謁見自体は明日の夕方には終わるはず。
きっと久しぶりに故郷に帰る私のことを思って余裕をくれたんだね。
「うん。またこの場所で」
私はジュストくんに手を振って、ひとりで絨毯に飛び乗った。
ずいぶんと広々としちゃった空飛ぶ絨毯がゆっくりと上昇していく。
下の方ではジュストくんが笑顔で私の方を見上げている。
その姿が見えなくなるまで、私は手を振り続けた。
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