449 いまさら友だち活動

 とりあえず、ホテルはなんとか探し出しました。

 三人だけになっちゃったので、一人部屋と二人部屋に別れて泊まる。


 ジュストくんはあれから一言も喋らず、なんだかいろいろ考えてるようだった。

 カーディに言われたことを気にしてるのか、それともスチームに敵わなかったことがショックだったのか。


 四階建てのホテルの窓からは通りの様子がよく見える。

 さすがに世界一、二を争う輝工都市アジールだけあって、夕方になっても人が多い。


「はあ……」


 重いため息が聞こえた。


「大丈夫ですか、フレスさん?」

「はい……いいえ、ごめんなさい」

「どうしたの?」


 私はベッドに腰掛ける彼女の隣に座る。


「さっきの私、とっさに動けなくて……危うくルーチェさんを見殺しにするところでした」

「あー、うん。仕方ないと思うよ。あのスチームって人かなり強そうだったし」


 実際には心配なかったんだけどね。

 気にしてるならフレスさんには言っておいた方がいいかな。


「情けないですよね。これまで何度もエヴィルと戦ってきたのに、相手が白の生徒様っていうだけで、あの程度の幻術相手に対処できないなんて……」

「え、幻術だって気づいてたの?」

「はい。それは見ればわかりますから」


 いやいや、見ればわかるって。

 私だって遠くから見て初めてわかったんだけど。

 っていうか幻術だってわかってるなら、別に見殺しにはしてないと思うよ?


「白の生徒様は大賢者様から認めた選ばれし人たち。そんな偉い人に手を出してしまって良いのかと、迷ってとっさに反撃できませんでした」

「ああ、そういう……」


 こともあるのかな?

 私は全然そんなこと考えなかったな。

 というか、ジュストくんだってやる気だったし。

 白の生徒って、普通の人からはそんな偉いと思われてるんだ。


「あれ。っていうか、フレスさんひょっとして、私の事もそういう目で見てたの?」

「私はルーチェさんと旅ができて光栄でしたよ?」


 それはなにげにショックな発言ですよ。

 自分がこんなだから、別に白の生徒が偉いなんて認識はなかった。

 けど、世間的にみて英雄の弟子っていう肩書きは、やっぱり大きな意味があるんだ。


「強くなるだけじゃダメなんですね……もっと、偉くならないと」


 なんだか深刻な表情で怖いことを呟いてるフレスさん。

 白の生徒って別に貴族とか大富豪とかとは違うんだけど。


 ううん、それよりも!


「フレスさん!」

「はっ、はい」

「今さらですけど、私の事はルーチェって呼び捨てにしてください」

「は、は? えっと……ルーチェ、さん?」

「さん、はいらない。呼び捨て。ルーチェ。なんならルーちゃんでも可」

「えっと、それはどういう意図が……?」


 これまでフレスさんがずっと敬語だったのは、そういうおとなしい性格の人だからって思ってた。


 けど、実は彼女が私に対して距離を置いていたんだとしたら?

 もう半年近くも一緒に旅をしてるのに今さらだけど……

 そんなのはダメに決まってる!


「ルーチェ。る・う・ち・え。ほら、言ってみて。さんはい」

「る、るーちぇ、さん」

「だーかーら……っと」


 まてよ?

 そういえば私の方も呼び方はさん付けだった。

 やっぱり歩み寄るならこっちからしなきゃダメだよね。

 よし、呼んじゃうぞ。

 こほん。


「フレス」

「は、はひっ」

「私たち、友だちでしょ? 敬語とかさん付けとか無し。わかったら、フレスも私のことルーチェって呼んで」

「あのっ、でもっ」


 フレスさん……じゃなかった、フレスは顔を真っ赤にさせて慌ててる。

 別に私と仲良くなるのが嫌ってわけじゃないんだよね。

 彼女の中で崩せない遠慮があるみたい。


 もし、この旅の間中、ずっと窮屈な思いをさせていたとしたら。

 これまで気づかなかった私にも責任がある。

 よーし。


「あの、何をされてるんですか?」


 急にカバンの中身を漁り始めた私を怪訝そうな目で見るフレス。

 何か良さそうなモノがないか探ってるんだよ。

 うん、あるわけないね。

 旅の途中で遊び道具とか邪魔だもんね。


「なら出かけよう」

「何が『なら』なのかわかりませんけど……」

「いいから。ほら買い物に行くよ」

「ええ、でも……」

「行くの!」


 私はフレスさんの手を取り、財布だけを持って部屋を出た。

 ちょうど部屋から出てきたジュストくんと出くわす。


「ごめん、ちょっと出かけてくるね」

「えっ、どこに?」

「わかんないけど、夜までには戻るから心配しないで」

「って言ってももう夕方だけど……あれ、フレスも一緒に?」

「ちょっと二人だけで話したいことがあるから、ジュストくんはゆっくり休んでてね」


 言いたいことを一方的に言ってジュストくんと別れる。

 私たちふたりは日の傾き掛けている神都の繁華街へと繰り出した。




   ※


 さすがは世界で一、二を争う輝工都市アジール

 帝都アイゼンの時は吸血鬼騒ぎのせいでゆっくり見て回る余裕はなかったけど、こうして繁華街を歩いてみると、同じ輝工都市アジールでも故郷のフィリア市とは比べ物にならない大都会だ。


 とりあえず大型の百貨店……

 デパートに入って、ウインドウショッピング開始。


 買い物といえば旅の消耗品とか防具とかばっかりだったけど。

 今日は服とか、カワイイ小物とか買っちゃうもんね。

 さっそく良さそうなブティックがあったよ。


 赤を基調にしたひらひらのロングスカートを手に取る。


「ほら、これフレスに似合いそう」

「え……でも、ちょっと派手な気がしませんか? 旅をするには少し動きづらいというか、裾が汚れちゃいそうです」

「もう旅は終わったんだから大丈夫!」


 強引に説得してフレスに服を押しつける。


「とりあえず試着、試着」

「えええ」


 そのまま二人で試着ファッションショー。

 旅の間、私は先生にもらった輝術師服、フレスは教会の聖職者ばっかり着てた。

 洗風ウォシュルで毎日洗っていたとはいえ、ずーっと同じ服ってのは、女の子としてどうなのって感じだよね。


 店員さんにも見繕ってもらって、旅の間は着れなかったような服をいっぱい買った。

 フレスはなんか困ったような顔をしてるけど大丈夫。

 お金ならいっぱいあるもんね。


 買った服に着替えて、次なるお店へ。


風音盤レコードって知ってる?」

「えっと、声や音を保存しておく記憶媒体でしたっけ」


 わかってるなら大丈夫だね。

 風音盤屋さんに入って、試聴コーナーへ。

 二人並んでヘッドホンを装着して試聴曲を再生開始。


 さすがに知っている歌手の曲はなかったけれど、この国で一番売れているらしいアーティストの曲を聴いた。


 派手なロックサウンドのノリの良い曲。

 私は好きだけど、フレスには好みじゃないかな……


 と思ったら夢中で聞き入っていた。


「すごい、本当に耳元で演奏してるみたい……」


 歌に夢中になってるっていうより、風音盤そのものに驚いているみたい。


 私もそういえば半年ぶりだなあ。

 なんだか久しぶりにじっくりと見て回りたい気分。

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