357 ▽第三の選別
第二の選別も問題なく突破した。
まもなく第三の選別が始まる。
ここまでに残った参加者はたった八人だけ。
今年は第二の選別の審査基準がいつもより厳しかったらしい。
輝力の消耗を気にせず、とっておきの術を披露して良かったとベラは思った。
残った者の中には当然、レガンテやアビッソの名前もあった。
第三の選別はトーナメント形式の実戦である。
輝術の使用はもちろん、輝攻戦士化も認められる。
一対一による、純粋な輝士としての強さを競うのだ。
この戦いに勝ち残った者が、晴れてファーゼブル王国最強の輝士……
「運が良かったよ。決勝まで君と当たらないようだ」
張り出された対戦表を見ていたベラは後ろから肩を叩かれた。
声をかけてきたのはレガンテだった。
「しかし災難だったね。まさか、いきなりあの人と当たるとは」
ベラはいきなり第一試合で強敵と当たることになった。
平和な時代のお祭り騒ぎとはいえ、並み居る挑戦者を退けてきたその実力は間違いなく本物。
この国で現在最も強いと見なされている輝士なのだ。
しかし、ベラは相手が誰であろうと負ける気はない。
「早いか遅いかの違いだ。天輝士を目指すのなら、いずれ戦うことになる」
「たいした自信だ。輝攻戦士相手に君がどうやって戦うか、とくと見せてもらうよ」
「お前もな。集団戦での借りは決勝で返す」
苦笑するレガンテの胸を叩き、ベラは特設円形闘技場へと向かう。
※
「待て、ベラ」
闘技場へ向かう途中、名を呼ばれた。
足を止め振り返ったベラはそこに懐かしい顔を見つける。
「おじいさまではないですか!」
「久しぶりだな、会いたかったぞ」
ベラの祖父、先々代の天輝士ブランドである。
やけに周りがざわついていると思ったが、彼が来たからだったのか。
すでに引退しているが、ブランドは魔動乱期の天輝士である。
ファーゼブル王国において生ける伝説も同然の人物だ。
「今日は、どのようなお仕事で?」
「孫娘の晴れ舞台を見に来てやったんだよ」
先々代の天輝士と、女性でありながら第三の選別まで残った若き新米輝士。
周囲の輝士たちはそんな二人を興味深げに眺めていた。
もちろん、当の二人は気にも留めない。
「よくぞここまで勝ち残った。最後まで悔いの残らぬよう、全力で挑め」
「無論、そのつもりです」
ここまで来れば、あとは戦って栄光を勝ち取るだけ。
言われるまでもなく、ベラは持てる力を出し尽くして戦うつもりだった。
※
円形闘技場の中央にて。
現役天輝士のヴェルデは若き女性輝士と向き合った。
「先々代の孫娘と言ったな。若いのにここまで残るとは、たいしたものだ」
「恐れ入ります」
ヴェルデは現在の国内最強輝士である。
そんな自分を前にしても彼女は落ち着いている。
どうやら実力だけでなく、精神的な強さも持ち合わせているらしい。
ベラという名の若き女性剣士。
彼女は幼き頃から祖父を相手に修行してきたのだ。
今さら強敵を前にした程度で物怖じする道理はないのだろう。
伝説の天輝士ブランド。
先々代のその活躍はもちろんヴェルデもよく知っている。
魔動乱期に数々の武勲を打ち立てた歴代天輝士の中でも指折りの実力者。
当時まだ中堅輝士だったヴェルデにとっては、心から尊敬する偉大な先輩である。
しかし、目の前にいるのは本人ではない。
祖父の後を継ぐため輝士となったばかりの若き娘。
その努力と才覚は認めるが、残念ながらここで終わりだ。
「まだまだ天輝士の座を譲る気はない。悪いが、手加減はせぬぞ」
相手はまだ二十に満たない小娘だ。
第二の選別では面白い輝術を見せてもらった。
しかし、あのような術はとても実戦で扱えるものではない。
第三の選別にまで残った参加者の多くは輝攻戦士である。
生身の人間が輝攻戦士と争うのは、猫が獅子に挑むようなもの。
猫にあるまじき鋭い爪を持っていようと、それだけで勝てるものではない。
「無論です。本気で戦ってもらわなければ意味がない」
ヴェルデは眉を吊り上げた。
自分は平和な時代の天輝士である。
ディフェンディングチャンピオンなどと揶揄されている事実も知っている。
だが、それがどうした?
平和な時代ゆえ、武勲を立てるチャンスがないだけだ。
チャンピオンにはチャンピオンたる所以と意地、そして確かな実力がある。
「大口を叩くなよ、小娘……!」
「始め!」
小声で呟いた悪態をかき消し、審判が開始の合図を行った。
ヴェルデとベラは互いに切っ先を向け合う。
闘技場の空気が張り詰める。
「破ッ!」
先に動いたのはヴェルデだった。
大振りの、しかし神速の一撃がベラを襲う。
が、その攻撃はあえなく空を切った。
ヴェルデの剣が闘技場に突き刺さる。
その直後、乾いた音が二度連続で響いた。
ベラがヴェルデの腕と腹部の鎧を叩く音だった。
「ぬあっ!」
ヴェルデは素早く剣を引き抜いた。
そのまま間合いの内にいるベラを斬りつける。
しかし刃は届かず、ヴェルデの剣は再び空を斬る。
「油断をせぬようにと言ったでしょう」
眉間に切っ先が突きつけられる。
その向こうに、ヴェルデは信じられないものを見た。
眼前に立っている、輝粒子を纏った若き女性剣士の姿を。
「バカな、輝攻戦士だと……」
それは本来あり得ないことであった。
輝攻戦士になるためには輝鋼石の洗礼を受ける必要がある。
その許可を得るには、輝士として務めた長い年季、そして大きな功績がなくてはならない。
新米輝士が輝攻戦士になるなど、およそファーゼブル王国の常識では考えられないことだ。
もちろん、例外もある。
だがそれは正式な手順ではなく――
「ご心配なく、ちゃんと正式な契約を行っております」
「新米輝士が、どのような武勲を立てたというのだ」
「剣闘の実績という答えでは不服でしょうか?」
ヴェルデはハッとした。
剣闘とは剣術のスポーツだ。
彼の息子も王都で剣闘を嗜んでいる。
より安全には気を配っているが、実戦さながらの試合は輝士の修行に通じるものもある。
公式試合への参加資格はひとつだけ。
正式な輝士でないということだ。
輝士を目指す者には、見習いのうちに剣闘を通じて剣の腕前を磨いている者も多い。
剣闘は隣のシュタール帝国でも盛んである。
毎年、両国から代表者を輩出しての二国間大会も行われている。
その二国間大会で、三年前からずっと同じ選手が優勝していると聞いたことがある。
それが、この少女か。
スポーツとはいえ、国際試合での優勝は国家の栄誉になる。
それも三度連続となれば、戦場での武勲に匹敵する功があると言えなくもない。
だが、それにしても解せない。
功があろうとも、この娘は年季もない未熟な新米輝士である。
輝攻戦士になるための洗礼が国から許可されるとは、どうしても思えない。
とはいえ考えても仕方がない。
今の攻防では多少油断していたのは認めよう。
相手は生身の小娘であり、本気で闘うまでもないと。
認識を改める。
目の前に立つのは獅子。
決して侮れるような相手ではない。
甘い考えは捨て、全力で戦おう。
そうヴェルデが決意した直後。
少女――輝士ベレッツァは、ヴェルデより先に攻撃を仕掛けてきた。
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