332 大暴れ!

「オラァッ!」


 ヴォルモーントさんが拳に乗せて放つ、赤い光。

 それは巨大な輝力の塊だった。


 彼女の輝力容量は通常の輝攻戦士の五倍。


 ただ拳に輝力を集中して殴る。

 それだけで爆炎のようなエネルギーが吹き上がる。

 たった一発のパンチで十数体のエヴィルがまとめて吹き飛んでしまう。


「オラオラオラオラオラァ!」


 大輝術に匹敵する威力。

 なのに、それは一発限りの必殺技じゃない。

 ヴォルモーントさんの輝力が続く限り、いくらでも撃ち放題だ。


 エヴィルたちは彼女に近づくこともできない。

 たった一人でここまで多数の敵を相手にできる人なんて、私は彼女の他に知らない。


 もちろん、私も黙って見ているだけじゃない。

 見境なしに暴れる彼女の攻撃の余波を避けつつ、こっちに向かってくるエヴィルは自分で相手をする。


 それにこの状況。

 私も自分の力を試してみたい。


 よし、それじゃまずは一発。

 景気づけに思いっきりやるぞ!


爆華炸裂弾フラゴル・アルティフィ!」


 拳に輝力を集中。

 真っ暗な空に向けて腕を突き出す。

 しっかりと両足で地面を踏みしめ、発射!


 打ち上がるオレンジ色の光の球。

 それは空の一点で、色鮮やかな大爆発を起こした。


 轟く爆音。

 暗闇に咲く大輪の花。

 爆発は周囲にいたラルウァを三〇体ほど巻き込んだ。

 光の余韻とともに複数のエヴィルストーンがぼとぼと落ちてくる。


 よし、絶好調!

 久しぶりに使う私の最強技。

 これも前に比べてずいぶんと威力が上がってる。

 辛いと思っていた修行だけど、こうして目に見えて成果が出るとけっこう嬉しい。


「アナタもやるじゃない」


 ヴォルモーントさんが私の後ろに立って声をかけた。

 彼女は軽快なフットワークを刻んでる。

 まだまだ暴れ足りない様子だ。


「どんどん行くわよ!」


 彼女はまたすぐにエヴィルの群れの中に突っ込んでいった。

 真っ赤な輝力が立ち昇りエヴィルが吹き飛ぶ。

 休む間も惜しい、って感じだ。

 

 うん、地上は彼女に任しておいた方が良さそうだね。

 下手に近づくと私も巻き込まれそうだし。


 なので私は暗闇の空を見上げた。

 さっきの一撃でエヴィルたちは狼狽えてるように見える。

 数が減って分散しているため、もう一度大技を決めても効率は悪そうだ。


 ……よし。


火蝶乱舞イグ・ファレーノ! 火飛翔イグ・フライング!」


 十七の火蝶を展開。

 それと同時に空へ向かって急上昇。

 三体のラルウァが密集している所へ向かう。


「やっ!」


 直前でぐるりと右手側に旋回。

 流読みで胴体と頭に狙いを定める。

 それぞれのラルウァに二つずつ、火蝶を放つ!


 計六つの火蝶が、猛スピードで敵へと迫る。


「キキッ!」


 あるラルウァは逃げようとした。

 別のラルウァは腕を交差させ防ごうとした。

 また別のラルウァは氷の術を使って迎撃しようとした。


 それらの反応に対し、私の火蝶は意志を持ったように正確に反応する。


 追いかける。

 別の場所を狙う。

 反撃を回避して直撃させる。

 

「キッキャーッ!」


 攻撃はすべて命中!

 ラルウァは宝石へと姿を変えた。

 よし、二発当てればラルウァも倒せる!


 私は止まらず飛び続ける。

 その間に飛ばした分の火蝶を補充。


 前方に次のラルウァを捕捉。

 今度はこれだ、閃熱白刃剣フラル・スパーダ


「てぇい!」

「キキャ-ッ!?」


 勢いを乗せたまま、進行方向にいたラルウァを斬りつけた。

 抵抗も感触もなく妖魔の体が真っ二つになる。


 ついでに近くにいたキュクノスに火蝶を放ってやっつける。

 魔鳥は断末魔の叫びすら上げずにあっさりと消滅する。


 私はまた加速する。

 絶対に動きは止めない。

 周囲には常に十七の火蝶を展開し続ける。


 敵に近づかれたら閃熱フラルの剣と盾で追い払う。

 一か所に固まったら爆炎黒蝶弾フラゴル・ネロファルハでまとめてやっつける。


 全然輝力が尽きる気がしない。

 むしろ、溢れるほどに力がわいてくる。


 もっと戦いたい。

 もっと力を試したい。

 今ならどんなエヴィルにだって負けない。


「さあ、かかって来なさい!」




   ※


 空の敵は私がやっつける。

 地上ではヴォルモーントさんが暴れまわっている。

 一〇〇〇体を超えるエヴィルは、わずか十分足らずで壊滅状態になった。


 飛び回っていれば反撃は全然食らわない。

 もちろん敵も突進してきたり、輝術で応戦したりしてくる。

 けどカーディに比べれば、ラルウァやキュクノスの動きなんか止まって見えるくらいだ。


「ばかな、ばかなばかなばかな!」


 どこからともなく声が聞こえてきた。

 顔を上げて見ると、上空にダサヨアッタの姿があった。


「あの女はすでに限界が近かったはず! それより、あの娘はなんだ!? あんなヤツがいるなんて聞いていないぞ!」


 さっきの紳士的な態度はどこへやら。

 言葉も乱れてるし、ひどい取り乱しようだ。

 自分の居場所がバレていることも気付いてなさそう。


 ……こっそりと後ろから閃熱白蝶弾フラル・ビアンファルハでもぶつけちゃおうかな。


 あ、でもあいつを倒したらこの空間が消えるとしたら、残っているエヴィルはどうなるんだろう?


 一緒に外に出ちゃうのかな。

 わかんないし、不安だからやめておこう。

 先にエヴィルを全滅させてからの方が安全だよね。


「うおおおおっ!」


 ヴォルモーントさんの雄叫びが聞こえてくる。

 真下に目を向けると、十数体のエヴィルが吹き飛ばされていた。

 地上のエヴィルはもうほとんど壊滅状態だけど、彼女はまだまだ元気みたい。


 一方、空にはまだ結構な数が残っている。


「ええい、こうなったら……キキキキキキキキキ……!」


 な、なに?

 何をやってるの?


 ダサヨアッタの口から奇妙な声が響く。

 思わず耳を塞ぎたくなるような不快な声色だ。


 すると奇妙な現象が起こった。

 残ったエヴィルが一斉に動きはじめる。

 というより、見えない力に引っ張られてるみたい?


 地上のエヴィルも浮き上がり、空の一点に集まっていく。


「キキィッ!?」


 まるで強制おしくらまんじゅう。

 エヴィル達は一つの塊になって……互いの体を押し合い、潰れていく。


「一体何を……!?」


 陰惨な光景に私は思わず口元を抑える。

 すると、潰れた塊が突如として燃え上がった。

 エヴィルだったものが、一つの巨大な火の玉になる。


 いけない!


 私は炎の翅を拡げ、急いで距離をとった。

 直後、爆発音と共に火の玉が弾け、いくつかに分かれて地上に落ちていく。


 その様子はまるで流星群を空から眺めているかのよう。


「ヴォルモーントさん!」


 すでに炎の雨は彼女の居る地上に降り注いでる。

 その姿を隠すように、降り注いだ炎が地面を埋め尽くす。

 彼女に逃げ場は……ない。


閃熱白蝶弾フラル・ビアンファルハ!」


 とっさに私はダサヨアッタを攻撃した。

 ……けど。


「かああああっ!」


 雄叫びと共に発した冷気の塊。

 私の放った閃熱の白蝶は、その一撃で相殺された。


「ククク、この我をそんな技で倒せると思いましたか?」

「くっ……」

「獣や青奴を倒したくらいで調子に乗るな。我はケイオスぞ」


 こんなヤツでもいちおうケイオス。

 不意打ちで簡単に倒せるほど甘くなかった。


「あの女さえ死ねば、後はどうとでもなるでしょう。使えない獣共も最後には役に立ってくれましたね。残った貴女は我がこの手で直々になぶり殺しにして差し上げますよ。ククク……」


 自分の仲間を捨て駒にしておいて、この言い草!


 エヴィルに同情するのもおかしいけど……

 こんな非道なやり方、許せない!


 簡単に勝てる相手じゃないっていうのはわかってる。

 けど、こいつだけは絶対に私がやっつけて……あれ?

 

 ダサヨアッタの背後の空間がふいに赤く揺らいだ。

 次の瞬間――


「あ、がっ……?」

「よくもやってくれたわね」


 ヴォルモーントさんの手刀が、ダサヨアッタの肩口を突き刺し貫いていた。


「ば、ばかな。貴様、あの攻撃をどうやって……」


 地上を埋め尽くすほどの炎の雨。

 完全に逃げ場はなかったように見えた。


 けど、ヴォルモーントさんは全くの無傷だ。

 それどころか、衣服にコゲあとの一つすらついていない。


「アタシは人類最強の輝攻戦士なのよ。力任せに暴れるだけが能と思わないでね」


 あ、わかった、あれだ。

 前にカーディとの戦いで見せた瞬間移動。


 音速亡霊ソニックゴーストと違って超高速で動いているわけじゃなさそうだし、その正体はよくわからないけれど、とにかくヴォルモーントさんは大地を燃やし尽くすような攻撃から無事に逃れることができた。


 彼女は拳を握り締め、大きく腕を振りかぶる。


「さっさと逃げたアンタのお仲間は賢明ね。アタシの相手をするには、並のケイオスごときじゃ力不足よ」

「お、おのれおのれおのれえええっ!」

「じゃ、サヨナラ。クソ野郎」


 ヴォルモーントさんが拳を振り下ろす。

 暗黒の空間に、ダサヨアッタの頭が打ち砕かれる音が響いた。

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