317 この街を護る者
「なんだって!?」
いまの放送を聞いたジュストくんが叫んだ。
やっぱり呪霊窟が近くて危ないってのは本当だったんだ。
こんな警告が流れるってことは、たびたび同じことが起こってるに違いない。
「大丈夫かな……」
「たぶん輝士団が迎撃に向かうはずだけど、僕らも手伝いに行こう」
「うん」
エヴィルと闘うなら戦力は少しでも多い方がいいはずだ。
私たちの名前を知ってるなら、もしかしたら手伝わせてくれるかも知れない。
もし邪魔だって断られたとしても、万が一に備えて闘う準備をしておくのは悪くない。
何より、エヴィルの大群が街の側まで来ているのに、黙って待ってるなんてできるわけがない。
※
ホテルから出ると、目の前を青い鎧の人たちが横切った。
輝士団……じゃなった、警察団の人たちだ。
ちょうどよかった。
あの人たちについていけば、きっとエヴィルがやってくる方向に……
って、あれ?
「ちくしょう、離せっ!」
「今の放送聞いてたのかよ! 俺らを捕まえるよりすることがあるだろうっ!」
「黙れ!」
警察団の人たちは隔絶街の住人らしい人たちを連行して歩いてる。
「市内の治安維持が我々の使命だ。外のことには一切関知しない」
そう言いながら暴れる男の人を殴りつけているのは、昨日見た輝攻戦士らしい男性だった。
街中だっていうのに、まるで威圧するように輝粒子を纏って歩いている。
「あ、あのっ。今の放送は聞きましたよね、行かなくていいんですかっ」
彼らがどんな犯罪をしたのかわからない。
けど、今回に限っては本当に構っている場合じゃないと思う。
貴重な輝攻戦士なんだし、こんなところにいないで早く外に行って闘うべきじゃないの?
私の声に気付いた輝攻戦士の人は、こちらをちらりと見て厳しい表情を浮かべながら言った。
「犯罪者は非常時にこそ活発化する。こんな時だからこそ、街の治安を守る我々はしっかりと働かねばならん」
「でも、エヴィルの大群が近づいてるんですよね? そんなこと言ってる場合じゃ……」
「君たちも余計なマネはするんじゃない。警察団の関係者以外が街中で暴力を振るえば、それはただの犯罪だからな。では、失礼する」
警察団の人たちは犯罪者を連れ、街の中心部の方へ行ってしまった。
本当にエヴィルと戦うつもりはないみたい。
「どうなってるの……?」
「わからないけど、考えても仕方ない。僕たちは外に向かおう」
そ、そうだ。
彼らが市内の警備に集中してるって事は、エヴィルと闘う人が別にいるってことだ。
もしかしたら、犯罪者も本当に放っておけないほど酷いのかも知れない。
割ける戦力が少ないなら、なおさら私たちが手伝いに行かなきゃ。
「急ごう!」
こうなったら周りを気にしている余裕はない。
ジュストくんに気力を送って輝攻戦士化してもらう。
私は
これならすぐに街の外へ――
「何か……近づいて来る」
屋根から屋根へと飛び移っていたジュストくんが急に立ち止まって後ろを振り返った。
私も停止して後ろを見る。
瞬間、何かが私たちを一瞬にして追い抜いていった。
「きゃっ!」
「な、何だ!?」
改めて前を見る。
もうその何かはどこにもいない。
あまりに速過ぎて、姿さえ見えなかった。
「い、いまの、何?」
「……人だった」
「人?」
あれが人間?
カーディの
でも、カーディがあの術で素早く動けるのは、あくまで一瞬だけ。
追い越されてから視界から消えるまで目にも止まらない速度で移動し続けるなんて、
「とりあえず、追いかけてみよう」
私たちはその人が向かった方向を目指して移動する。
もしかしたら、あれはこの街を守護する輝攻戦士かもしれない。
街門に差し掛かったところで下を見ると、人々が集まって何かを叫んでいた。
「外に出せ!」
「よそ者に任せておけるか! 街の平和はオレたちが守るんだ!」
「ええい、黙れ! 貴様ら全員牢屋にぶち込むぞ!」
角材や鎌を持ち、口々に叫ぶ街の人々。
それを押し留めているのは警察団の人たちだった。
輝攻戦士が睨みを利かせると、人々は勢いを削がれて大人しくなる。
「な、何やってるの、あれ」
街壁の内側で警察団と市民が争ってた。
しかも、その中には輝攻戦士もいる。
これ、明らかに配置間違ってない?
外のエヴィルとは一体だれが戦ってるのよ。
「降りて行ったら面倒なことになる。それより、僕たちは外に!」
そ、そうだ。
ひょっとしたら、突然のことで対応が追いついていないのかもしれない。
こうしている間にも外にいるはずのエヴィルの集団は確実に街へと近づいている。
彼らが戦わないなら、私たちが行って食い止めなきゃ。
ところで、エヴィルの集団ってどれくらいの数なんだろう。
まあ、ちょっとくらいなら私とジュストくんだけでもなんとかできるはず。
……正直、不安だけど。
せめてフレスさんを連れてくればよかった。
※
街壁を越えると、驚くような光景が広がっていた。
「うそ……」
草原を埋め尽くす、無数のエヴィルがいた。
それは一〇〇や二〇〇じゃきかない。
五〇〇、六〇〇……
いや、もっと……
もっと多い。
あんなの、私たちが行ったってどうすることもできない。
とんでもない状況に私たちは絶望する。
と、不思議な現象が起こった。
「――え?」
ぞろぞろと固まって近づいてくるエヴィルの群れ。
それが、まるで水を掻き分けられるように次々と吹き飛んでいく。
何かがいる。
海のようなエヴィルの群れの中。
赤い光の塊が、泳ぐように走り回っている。
赤い波がその塊から放たれる。
エヴィルが何十体もまとめて吹き飛ばされる。
「あれは……輝術?」
物凄い威力。
それも一発撃って終わりじゃない。
何度も何度も連続で放たれ、そのたびにエヴィルが大量に消し飛んでいく。
吹き飛ばされたエヴィルは消滅し、だんだんとその数を減らしていく。
密度が減ったことで見やすくなった赤い輝力の塊の中心を見る。
そこには確かに人がいた。
あそこで誰かが戦っている。
「ルー!」
呆然としていると、ジュストくんに叱咤される。
い、いけない。
誰が戦ってるにしても、行って手伝わないと。
城壁から飛び降りる。
私たちは戦場へと近づいていく。
その間にもエヴィルはどんどん消えていく。
「うそ……」
私たちが着いた時には、すでに戦いは終わっていた。
城壁の向こうから見たときには、間違いなく五〇〇を超えるエヴィルがいたのに。
今は、草原には無数のエヴィルストーンが転がっている。
その中心に佇んでいるのは、たった一人の女性。
印象は、赤
それはエヴィルの返り血か。
はたまた夕日に照らされているためか。
腰まで届くストレートヘアは、血の様に真っ赤。
黒いハーフジャケットに、大胆に素肌を露出したショートパンツ。
その全身は敵の返り血で赤黒く染まっている。
その人が振り向いた。
目が合った瞬間、息が止まった、
それほどに、彼女は凄惨な姿だった。
炎のような輝力を纏い、彼女は呟く。
「……清掃係か?」
話しかけられた瞬間、心臓が飛び出るかと思った。
全身が血で汚れていても、その女性は異様に美しく見えた。
視線だけで射殺すような目。
こちらを真っ直ぐ見据えるその眼差し。
私は一言も言葉を発することができなかった。
私たちが街中で追い越されてから、まだ十分も経っていない。
その僅かな間に、この人はたった一人で、瞬く間に五〇〇を超えるエヴィルを全滅させた。
「後は頼む」
彼女は来たときと同じように、真っ赤な風となって街壁の中へと飛び立っていった。
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