274 恨みを持った盗賊たち
半年前、この近辺でとある盗賊団が好き放題に振る舞っていた。
始まりは町から流れてきた小規模な無頼者の集団だった。
彼らは近隣の浮浪者や村八者を吸収して少しずつ規模を拡大していった。
ついには五十名を超える大グループとなって、あちこちの村で略奪をするようになった。
と言っても、畑泥棒や留守の家を狙ってコソドロを繰り返す程度の、セコイ集団だったみたいだけど。
だからと言って、被害が出ている以上は放っておけるわけもない。
繰り返し行われる犯行に事態を重く見た近隣の村の代表たちは、連合して隣の大国であるセアンス共和国に盗賊を退治してもらうよう訴えた。
小国のちょっとした事件に大国の輝士団はなかなか動いてくれない。
なので村の代表たちは事実を大幅に誇張して伝えた。
その内容は「武力によって地方を統一し、新たな国家を樹立しようとするカルト集団がいる」というものだった。
報告を受けた輝士団は異例の速さでやって来て、瞬く間に盗賊団を壊滅させてしまった。
あまりの抵抗のなさに不審に思った人もいたらしいけど、武力による国家滅亡を企てていると思われる凶悪犯たちに情けを掛けるわけにもいかず、盗賊団の大半はその場で斬り殺されたらしい。
報告の嘘は後にバレたけれど、盗賊行為は事実だったので村落連合がお咎めを受けることはなかった。
かろうじて生き延びた盗賊団の残党たちは「いつか恨みを晴らしてやる」と言い残して、ここから西側に位置する岩山に逃げ込んだらしい。
……と、いうさっき聞いた話を私はカーディに伝えた。
「どう思う?」
「なにが」
「だから、その盗賊団の残党が、村の人たちを殺した犯人じゃないかってこと」
盗賊の残党が逃げ込んだ岩山は、この村と最初に被害にあった村のちょうど中間あたりにある。
馬車を飛ばせば、丸一日程度で行けるような距離だ。
もちろん、逃げた残党を追撃するって話はあった。
けれどタイミングの悪いことに、ちょうどその頃この辺りにケイオスが住み着き、小規模な巣窟が作られてしまったらしい。
手間とリスクを考えたら輝士団は手を出せないけど盗賊たちも岩山から出るに出られない。
放っておいてもエヴィルに襲われて全滅するだろうってことで、そのまま放置されてしまったらしい。
「この辺りにいたケイオスは五日前に倒されているの。最初の襲撃事件が始まったのはその直後。いくらなんでも、タイミングが良すぎると思わない?」
ヴェーヌさんたちの活躍で、この地域からエヴィルがいなくなった。
けれど、そのせいで盗賊たちも岩山から出てこられるようになってしまった。
嘘の報告で仲間たちの大半を殺された盗賊たち。
彼らは村落連合に加わった村すべてに復讐しようとしている……
あくまで推測だけど、可能性は高いと思う。
「そうだね。動機としては十分だ」
カーディは椅子を後ろに傾け、優雅に紅茶を啜りながら言った。
「そいつらの恨みがどれほどのものかは知らないけれど、これだけの被害が出れば確実に大規模な討伐隊がやってくる。多少の休憩を挟んだとしても、本気で近隣の村を全滅させる気なら、かなり急いで行動するはずだね」
「じゃあ、やっぱり今日中に……」
「やってくる可能性は高い」
やった、お墨付きをもらったぞ。
「ところでさ、盗賊団が現れたら、カーディも手伝ってくれる?」
「いやだね。ただの盗賊集団なんて、何人殺したってなんにもなりやしない」
「何十人も人が殺されてるのに?」
「そいつらよりわたしが殺したヒトの数の方がよっぽど多いよ……まあ、ひと目くらいは見てみたいと思うかな」
「なにが?」
「同族を残虐なやり方で抹殺するヒト族が、いったいどんなやつなのかね」
ニィ……と口を左右に裂いて、彼女は心底から楽しそうに笑う。
そのカーディの表情は、ゾッとするほどに恐ろしかった。
どんなにかわいい外見をしていても、やっぱりケイオスなんだ。
人間がいくら死のうが、彼女は何とも思わない。
利害関係から今は協力しているけれど、その正体はかつて黒衣の妖将と呼ばれた最強のケイオス。
私は改めて、彼女のことが恐ろしく思えてきた。
けど、だけど……
「かわいいものはかわいい!」
「脈絡もなく抱きつくな! 紅茶がこぼれる! あっつ!」
大丈夫、内面なんて気にしないよ。
小さい子に大事なのは外見と声のかわいさだもん。
カーディはどっちも満点クリア。
だからお願い、そのままの外見のあなたでいて。
「ああ、ぷにぷに……」
「それ以上触ると残虐なやり方で抹殺するよ」
昨晩からの緊張によるストレスの発散も兼ねて、私は飽きるまでカーディのほっぺたを突っつき続けた。
※
昼過ぎには全員で宿屋の食堂に集合した。
みんなの話を総合して、わかった状況と、これからの行動を決定する。
「盗賊団が隠れていると思われる岩山の調査を行おう」
もし事件との関連性が見られるようなら、その場で拘束するつもりで先手を打つ。
「岩山に向かうのはビッツさんとフレスの二人。僕たち三人は村に残って襲撃に備える」
戦力を分けるのは不安があるけれど、相手がただの盗賊なら二人でも十分すぎるくらいだ。
ちなみにダイはさっきまで素振りを続けていたけれど、今は部屋に戻って眠っている。
何かあったら起こしてくれって言っていたけれど、盗賊団くらいが相手なら戦力の心配もないし、今は寝かせておいてあげた方がいいと思って声をかけなかった。
その後、私たちは村の入り口に集合した。
ビッツさんの手に触れ、輝力を送る。
「もし何かあったら、無茶せずにすぐに戻ってきてね」
隷属契約を行っていれば、相手が戦闘を行ったり、異常があったときにはすぐにわかる。
激しい戦闘で傷ついたりしなければ、丸二日くらいは輝攻戦士状態でいられるはずだ。
「安心せよ。そなたを守るため、私は決して死んだりせぬ」
「あ、はい」
うわついた言動を恥かしげもなく語るビッツさんに生返事をして、私は次にフレスさんに声をかけた。
「気をつけてね」
「はい。ルーチェさんはダイさんをよろしくお願いします」
「では行ってくる」
ビッツさんは輝攻戦士の低空飛行で飛んでいき、あっという間に見えなくなった。
彼もここ数ヶ月の間にすっかり輝攻戦士としての技術を身につけている。
その後を
岩山に馬車は入って行けないため、ひたすら飛んで行くほうが早い。
盗賊が留守だったとしても、明日には行って帰って来られる予定だ。
もちろん、帰ってきたときには相当グロッキー状態だろうけど……
こっちはこっちで、入れ違いで襲撃を受ける可能性があるから、気を抜けるわけじゃない。
ダイがあのままならジュストくんと私だけで戦わなくっちゃいけないし。
「それじゃ、僕はまた近隣の見回りに行ってくるよ」
「うん、よろしく」
輝力を借りて輝攻戦士化したジュストくん。
私は彼を見送ると、ダイが眠っている宿屋へと向かった。
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