78 狼雷団の切り札
よろよろになりながら私たちはお互いの体を支えにしながら歩く。
足がもつれて倒れそうになった。
間一髪のところを二人揃ってファースさんに支えられる。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして。っていうか二人ともボロボロね」
ファースさんがからかうように笑う。
私はとても笑い返す気にはなれず深いため息をついた。
「あら、お疲れかしら?」
「ファースさん……」
筋違いかもしれないけど彼女の軽い態度に苛立ちを覚えてしまう。
ジュストくんも同じようで彼にしては珍しく不機嫌そうな顔をしていた。
「あんな強い相手なら援軍を待つべきだったんじゃないですか。僕はともかくルーチェまで危険な目に合わせてしまって――」
「はい黙る」
抗議を無視してファースさんはジュストくんの肩を突き飛ばした。
バランスを崩したジュストくんは後ろに倒れてしまう。
「……っ」
「な、なにするんですか!」
信じられない!
こんなになるまで頑張ったジュストくんになんて酷い事を!
「ナマイキ言うんじゃないわよ。ルーチェを危険な目に合わせたのはあんたの力不足が原因だってわかんない? ナイトを気取っておきながら最後は彼女に助けられてるじゃない」
彼女の指摘にジュストくんは口を噤んでしまった。
もちろん私の怒りは収まらない!
「ジュストくんは輝攻戦士になったばっかりなんですよ。ダイも怪我してたし無茶言わないでくださいっ!」
「それでも、あの程度の相手なら三人がかりで勝てると思ったんだけどねぇ……」
私の怒りを軽く受け流して深くため息をつくファースさん。
一体なんなの?
あんな強い相手に勝てるなんて思う方がどうかしてる。
最後はなんとかなったもののあの思いつきがなきゃ絶対に負けてた。
「それに援軍は来ないわよ。私が途中で引き返させたから」
「はい?」
ってことはどっちにせよ私たちだけで戦うしかなかったってこと?
「どうしてそんなことしたんですか!」
「必要ないからよ。結果的にあなたたちだけで十分だったじゃない」
「そういう問題じゃない! どうして危険な役目を私たちに押し付けたの!」
「そういう問題なのよ。余計な邪魔が入ったらテストにならないでしょう」
言っている意味がよくわからない。
「テストって、いったいどういう――」
「文句は後で聞いてあげる。それより先に後始末をつけちゃいましょ」
そう言ってファースさんは私たちの背後に視線を向けた。
つられて振り返ると――
「驚いたぞ……まさかこれほどの術を行使するとは……」
表情から一切の余裕をなくしてはいるけれど、そこには確かにスカラフが立っていた。
煤だらけの顔に憎しみを浮かべて私たちを睨みつけている。
そんな、あれで倒せなかったなんて……
「やはりその力は危険だ。ここで摘み取っておかねば!」
そう言ってスカラフは懐から何かを取り出した。
「いけない! 早くスカラフを止めろ! アレは、アレだけは!」
背後からの声に振り向く。
ビッツさんが叫んでいた。多少は傷が癒えたらしい
アレ?
この後に及んで一体何をそんなに恐れているのか。
私の疑問はすぐに掻き消えた。
さっきの花火を上回るほどの爆発音が響いた。
廃墟一番奥のひときわ大きな建物が火柱を上げている。
何が起こったのか考える前に崩れ落ちた瓦礫の中からソレは姿を現した。
「嘘……」
小山ほどもある巨大な体躯。
全身緑色の爬虫類めいた皮膚。
黄昏の空を覆い尽くすように拡げられた二枚の翼。
耳を劈く甲高い鳴き声を上げるのは真っ赤に避けた獰猛な口。
立ち並ぶ一つ一つが人間の子どもほどの大きさの牙。
そして小さい手に不釣合いなほど長い左右合わせて六本の禍々しき爪。
「ウオオオオォォォォォォォン!」
歴史の資料でも数えるほどしか見られず、ほとんどが物語の中の存在として語り継がれてきた世界最強の種族。
エヴィルと同じ故郷を持ちながらそれとは全く異なった存在。
巨大な竜が、咆哮と共に大空に舞い上がった。
※
「さあ見せてやれ、最強の種族の力を!」
スカラフが命令する。
竜の口が上下に開いて口内に輝力に似た光が収束する。
「ルルルオオオォォォォォン!」
数秒の後、溜めたエネルギーは一気に放たれた。
炎になった吐息は真下にではなく遠くの森に降り注いだ。
炎の吐息を受けた森が炎上する。
夕暮の空がより濃く赤々と照らされる。
広範囲に渡って燃え広がる炎。
延焼範囲は私たちが今いる廃墟よりも広いかもしれない。
「クケケケ! 見たか、これが本当の奥の手だ!」
圧倒的な破壊の前にスカラフの声を不快に思う余裕もない。
まるで夢の中にいるような非現実感しかなかった。
竜の口に再び光が収束する。
それを見て私は正気に戻った。
あんなものが降り注いだら逃げる場所もない。
止めなきゃ。
これ以上、あの炎を吐かせちゃいけない!
考えるより早く私は走り出していた。
「待てっ!」
ジュストくんが制止する声が聞こえたけど構っていられない。
竜の下までたどり着くと、私は再び花火のイメージを思い浮かべた。
喧騒、光、轟音。
鮮明に思い描いた光の輪は私の中の輝と混ざって体中を暴れまわる。
よし……いける!
「
掲げた右手からオレンジ色の光の弾丸が打ち出される。
それは真っ直ぐ竜の腹部に吸い込まれ着弾する。
竜の巨体をほんの少し浮き上がらせ、数秒の硬直の後さっきよりも近くで轟音を上げ炎の華を咲かせた。
なのに。
「うそ……」
私は呆然と上空の巨体を見上げながら尻もちをついた。
それは竜が現れた時以上のショック。
無我夢中で放った二度目の花火の術は完璧に成功した。
竜の無防備な腹に突き刺さり、そのまま炸裂した。
音も光の輪の大きさもスカラフにぶつけたものと変わりはない。
なのに、なのに……どうして効かないの!?
まるで何事もなかったかのように平然としていられるのよっ!
「クケケケッ! 無駄だ無駄だ! 竜の障壁の前ではその程度の輝術などそよ風も同然!」
せっかく終わったと思ったのに。無事に帰れると思ったのに。
今の私はきっとスカラフが一番喜ぶ顔をしているんだろう。
でもこの無力感はもうどうしようもない。
「ルルルオオオォォォォォン!」
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