26 仲直り相談
市の中心であるルニーナ街は夜でも明るい。
輝光灯の明りが色とりどりに街を照らす中、私たちは肩を並べて歩いた。
帰っても食事の仕度はできていないのでどこかで食べていこうってことになった。
花火大会の後だからこの時間にしてはいつもより人通りが多い。
「そういえばさ、ずっと気になってたことがあるんだけど」
ジュストくんが遠慮がちに口を開いた。
な、なに? ひょっとして私の気持ちを確かめようとしてるのかな。
だとしたら私、何て言おう。
えっと、す、す、私は、あなたが――
「友だちとは仲直りできたの?」
「えっ」
「僕のせいでケンカになっちゃったから、あれからどうなったのかずっと気になってたんだ」
あの日、カフェテラスでナータとケンカになったことのことだ。
ジュストくんが気にしていたなんて思っていなかったので私は少し驚いた。
ナータとはあれっきり一度も口をきいていない。
学校でもすっかり無視されてるから仲直りしようにもきっかけすらない。
私から謝る気なんて全然ないけどね!
「いいの。あれはナータが……あの娘が悪いんだから! 人の話全然聞かないでさ、私がいくら説明しても信じてくれないで」
冷静に説明できなかった私も少しくらいは責任があるかもしれないけど、ここ数日の態度を見て確信した!
あの娘は単に私が自分の思い通りにならないのが嫌なだけ。
私はナータのオモチャじゃないんだから!
「まだ仲直りしてないんだ」
「だってナータってば学校で会っても無視するんだもん。もう誤解だったってわかってるはずなのにさ。私、あっちが謝るまで絶っ対に仲直りなんかしないよ。だから私、言ってやったんだよ。ナータなんかもう友だちじゃないって」
本当は私からそんなこと言っていない。
ただ言われっぱなしは癪だからジュストくんに見栄を張ってみたつもり。
けど、
「そんなのダメだよ」
不満を喚き散らす私をジュストくんは悲しそうな顔で咎めた。
まるで私の言葉が自分に向けられたみたいに。
どうして? なんでジュストくんがそんな顔をするの?
「その娘もたぶん心配だったんだよ。だって危険を顧みずに隔絶街に迷い込んだルーを助けに来てくれたじゃないか」
あ、そういえば……
「あそこの怖さをよく知っているから言葉も厳しくなったんだと思う」
「それは、そうかもしれないけど」
「だからその子もルーも悪くないよ。不用意に誤解を招くようなことをした僕が一番悪い」
「そんな! そんなことは……」
「ううん。友だちってすごく大切だから。ちょっとしたふざけ合いやケンカはあってもいいけど友だちじゃないなんて言っちゃだめだよ」
うっ……そ、そりゃ私だって本気でナータと絶交したいなんて思ってない。
けどあっちがあんな態度だから仕方ないじゃない!
「でもでもナータは話も聞いてくれないんだよ。この前だってさ、私はちゃんとジュストくんの潔癖を証明しようとしてたのに自分の勝手な考えばっかり押し付けてたし」
「自分からケンカを始めちゃった手前、意地を張ってるだけじゃない? 勘違いだってわかったからなおさら素直に謝るのは難しいのかも」
そ、そういうこともあるかもしれないけど。
ナータの性格なら特に。
確かに昨日の今日でいきなりいつも通りの話しかけられ方したら私の方も困るけど。
昨日悩んだのはなんだったんだーっって。
「ルーはその娘とこのままでいいの?」
「…………やだ、です」
「だったらルーの方から折れてみたらどうかな。その娘の気持ちとかも考えてあげてさ」
「そう……ですよね」
……そうだよ。よく考えたら私、ナータの気持ちとか全然考えてなかった。
わかってた。ナータは本気で私の事を心配してくれてるんだって。
ただやり方が強引だっただけ。
あんな目にあった今ならわかるけど、それくらいに慎重じゃないと自分の身を守ることなんかできないから。
私は今まで当然のように平和な暮らしを送っていた。
けれど知らない場所に行けば……ううん、身近な場所でだって危険はいっぱいある。
そんなことも理解してなかった私にナータは厳しく教えてくれたんだ。
思い返してみれば最初に怒鳴っちゃったのは私の方だった。
そりゃ頭にも来るよね。
次の日には平気で許してもらおうなんて考えた私が甘かった。
どっちが悪かったかなんてもういいや。
これ以上ナータとケンカなんかしてたくないもん。
「うん。明日、私の方からナータに謝ってみます」
「それがいいと思うよ。無視し続けたりするよりずっといい」
「ありがとう」
私は頑固だから、このままじゃつまんない意地を張り続けて本当にずっと仲直りできないままだったかも。
ジュストくん、ありがとう。
男の子相手だからかな。
相談してみるだけでこんなにスッキリした気持ちになれるなんて、不思議。
「もしナータと仲直りできたらジュストくんのおかげですね」
「いやぁ、ケンカしたのも僕のせいだから」
「そんなことないですよ」
「ところでまた敬語になってるよ」
「あっつい……」
「できればもっと打ち解けて話して欲しいな、ルーチェさん」
「もうっ。だからさん付けは止め――」
花火の時の張り裂けそうなドキドキとはまた違う、気恥ずかしくってわくわくするような、なんとなくいい雰囲気になりかけた時。
「きゃああぁぁあぁぁああーっ!」
耳を突き刺すような絶叫が夜の街に響いた。
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