音と唄と思い出と

一颯

1 I’m looking for …








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突然の出来事だった。


僕が呆然としているうちに事は物凄いスピードで過ぎ去っていき、


気がつけば彼女の葬儀は終わっていた。


そう、まるで、ちり、のように消えていった。






誰もいない部屋に1人戻ると、誰もいない事実に泣いて、喚いて、狂いそうだった。


全ての感情に蓋をして、奥底に押し込んで、涙を飲み込んで廊下を歩いた。


塩なんて振ってなるものか。


彼女が存在していた証明が消えていきそうで怖かっただけだ。


喪服のネクタイを緩め、ソファに座り込む。


ため息を一つつくと、テレビの脇にある写真立てが見えた。


この前、そう、ついこの間だ。


なんの記念でもないけれど撮った、写真。


いつの間にか現像され、木枠に入っている。


重い身体を動かして立ち上がり、写真立てを手に取る。



「君は…こうなることが分かっていたの?」



だからこうして、記念日でもない日に、この部屋で、思いつくままに写真を撮ったの?


携帯のデータだけじゃなくて、わざわざ現像して、枠も買って、飾ったの?


僕が、君から離れられないように。



─好きだよ。好きだったよ。今でも、これからも。


儚く、切なく、酸っぱくて、でも甘い、過去の思い出達。


去年の夏祭りで食べたわたあめのように溶けた僕の恋。


淡い思い出。消えることのない記憶。忘れていく現実。


愛しい思いだけが大きくなって苦しい。


これから冬になるのに、君がいないんじゃ、寒いじゃないか。


思いが、願いが、涙という形になってとめどなく溢れる。


行かないで、これからもずっと一緒にいてほしい。






重い足を引きずるように会社へ向かう。


乗車率200パーセントの息が詰まる電車にゆられ、立っていた僕は思わず窓ガラスに手をつく。


あぁ、なんて日だ。


すみません、と小さい声で座っていた人に言う。



「あ、いえ、大丈夫ですよ。」



お兄さんこそ大丈夫ですか?なんて言われた。



「なんだか心ここに在らず、って顔してます。」



「…え?」



いや、あったことはあった。


原因はわかってる。



「…ご心配ありがとうございます」



苦笑いをしながら返した。


すると座っていた女性はふふっ、と笑い、本に目を落とした。


切り揃った前髪に、長い黒髪、耳の上に赤いピンがバッテンに止まっている。


…いや、こんな見てたら変人か。


ため息をついて可動域が狭くなっている首を回した。



「あ、これ、差し上げます。」



そう言って目の前の女性は、赤から黄色のグラデーションで、ラミネートされた花弁を僕の前に出した。



「それ、去年の隅田川の花火大会の時の花火の欠片です。」



この人は何を言っているんだろう。


そんな言葉が顔に出たのか彼女は続ける。



「信じるか信じないかはあなた次第です、って言っておきます。」



あ、次で降りるんで、すみません。


そう言って席を立った。


僕は呆然としつつ、ドアに向かう彼女を目線で追う。


彼女が座っていた所は、いつの間にか違う誰かが座っているし、人混みに紛れて彼女の姿を見失ってしまった。



「花火の、欠片。」



思い当たる節はある。


去年の夏だ。亡きあの人と隅田川の花火大会を見に行った。



赤と黄色の花火、キレイだね。



そんなことも言っていた。


そういえば、今年、花火観そびれちゃったね。


本当は諦めたくない。


嘘だって思いたい。


でも。


来年は、一緒に観よう。


現実じゃなくたっていい。


少しだけ前を向けた瞬間だった。







少しだけ埃が積もった写真立てを見る度に思い出す。


彼女がいた証、生きていた印、


携帯のカメラで自撮りしたあの日。


満面の笑みの彼女と隣で戸惑っている僕。


僕は、



君だけが足りない世界で僕は生きていけるのだろうか。









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不慮の事故で大切な人を失った僕が


亡くしものを探しに行く話


そこにあるのは華やかで鮮やかな


過去の栄光だけだった









NEXT➣










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