異世界湯けむり英雄譚♨ ~温泉は世界を救う~
灯色ひろ
第一湯 アルトメリアの秘湯
序章 秘湯を制す者は異世界を制す
温泉に浸かっていた。
秘湯である。
ポカポカして、身体が芯から温まるようなお湯。
廃墟と化した神殿の奥に存在し、聖都に控える『聖女様』に認められなければ入ることも出来ないという、まぎれもない秘湯中の秘湯だ。
ああ、ここに来るまで本当に長かったな……。
突然この異世界に飛ばされて。
野を越え山を越え谷を越え海を越え砂漠を越え。
たくさんの国に行って、たくさんの秘湯をめぐってきた。
いわゆる“勇者”としてそれなりに頑張ったつもりだけど、どれだけ役に立ててるかはわからない。つーか俺は勇者でもなんでもないしなぁ。ただみんなと温泉に入ってきただけ、みたいなもんだろ。
でも、気付けば
「カナタ、カナタってば! なにぼけーっとしてんのよ! ほらほらあたしと来て! ホントに聖像あるわよ! あれで扉開けるんでしょ!」
「カナタ様。よろしければこのあとは、わたくしめとご一緒に……♡」
「待ちなさい二人とも。カナタはまず自分とスキルを磨く約束をしてくださっているのです」
「抜け駆けはだ・め・よ~? カナタちゃんはぁ、うちとマジカルクッキングしてくれるんですから~♪」
「ちょ、ちょっと待ってくださいみなさん~っ。カ、カナタさんは今後のお悩みごとをですね……っ。ああ、ボクなんかが出しゃばってごめんなさい……」
「なんじゃやかましいやつらじゃの。風呂の中くらい静かにできんのか。やれやれ、湯の浸かり方を知っとるのは妾と主様、それにユイくらいじゃな」
みんながワイワイと楽しそうにしている。
全裸で。
肌色満載で。
うーん。
いやぁ、ほんと絶景だなぁ。
何せ、種族も生い立ちも年齢も性格もスタイルも違うみんながみんな、素晴らしく可愛くて綺麗でしかも強い。めちゃめちゃ強い。
こうして
そのうえ揃って全裸だ。
温泉に入ってるんだから当然なんだが、何度体験しても絶景の夢のような混浴だよなぁ。見慣れてはいても、やっぱり刺激はあるわけで。
しかもみんな、こうして俺なんかと混浴してるのに誰も身体を隠すようなことはせず、積極的に近づいてはいろいろと話しかけてくれる。
やはり温泉は心の距離を近づけてくれる『効能』があると思うし、これも信頼してもらえた証だと思えば何より嬉しい。おっぱいやおしりがいっぱいなのも嬉しいんだけど!
とにかく、本当に夢みたいだ。
初めは俺とユイだけだったのに、気付けばこんなにも多くの仲間が出来た。ここにいる子以外にも、たくさんの人が力を貸してくれた。
そんなみんなの存在が、俺にとっては一番の財産なんじゃないかって、今は思う。
そして今、みんなはさらなる高みへ登り続けている。
ただ俺と一緒に混浴するだけで、みんなの潜在能力値――『
ただし、この本物の異世界にそんなゲームみたいなステータスは存在しない。
この『レベル』とは、あくまでも俺の目にだけ見える、その人物が持つ潜在能力の目安となる数値であり、【神眼】スキルを使ったときのみその人の頭部付近に浮かぶものだ。そしてその数値は、俺と一緒に混浴するだけで無限に上昇していく。
ちなみに最弱モンスターといわれるノーマルなスライムが【Lv1】
村人などの一般の成人男性が【Lv5】
ウルフや熊などの猛獣が【Lv10】
一般的な騎士や戦士、魔術師などが大体【Lv20~50】
上級の冒険者になると【Lv100】を越え、強い者で【Lv500】にまで達するのを見た。
かつて魔王の配下だった上級魔族や、伝説の精霊、神獣クラスになると【Lv2000】から【Lv3000】を軽々と越える。これは驚異的な数値だった。
しかし、今の俺の仲間たちは文字通りレベルが違う。
【Lv25770】
「カ、カナタがなんかニヤニヤしてる! み、みんながいる前でエロい目しないでよバカ! そういうのは、二人きりのときに……」
【Lv19845】
「カナタ様……わたくしは、いつでもどこでもお待ちしておりますよ……? うふふ……♡」
【Lv39510】
「カ、カナタ。いくら英雄が色を好むとしても、昼間からそうなるのはどうかと思うのだがっ!」
【Lv31111】
「うちもいつでも大歓迎だわぁ~♪ あ、そうそうこの前精力のつくお菓子も作ったからカナタちゃんに食べてほしかったの~♪」
【Lv16395】
「だ、だからみなさん違いますよ~っ。カナタさんはまじめに今後の展望をですねっ。そ、そうですよねカナタさん?」
【Lv73403】
「あーあー五月蠅い! 貴様らはどうしてそう姦しいのじゃ! どうせ貴様らみたいな小娘に主様は満足させられんのじゃから、全部妾に任せておけばよいのじゃ!」
ギャーギャーギャー。
みんなはなぜか白熱し、誰が一番俺の役に立てるのかをあんなところやこんなところで比べ始めてしまった。そのままちょっとしたバトルに突入し、秘湯の中で投げ合いが始まる。
その最中にも、みんなのレベルはじわりじわりと上がり続けていた。今ではもう彼女たちに勝てるヤツはそうそういないだろう。伝説の魔王や、その魔王を討ち果たした勇者でも無理かもしれない。いや、すげー昔の話だからそう比較も出来ないだろうけどさ。
うーん、それにしてもみんな、やっぱり体つきも成長して…………「痛ぇっ!?」
【Lv96322】
「――カナタ。あんまりみんなをじろじろ見るのはどうかと思いますよ」
そう言って俺の腕をつねったのは、隣で湯に浸かっていた穏やかな笑顔のユイ。
ずっと一緒に旅をしてきた最初の仲間で、そのレベルはもう10万に近い。神さえ逃げ出すほどの魔力を備えた、俺の大切なパートナーである。わ、笑ってるけど怖いっす!
「ご、ごめんねユイ? いや、なんかちょっと気が抜けちゃってさ」
「……ふふ、そうですね。ここに来るまで、長かったですから」
きっと俺たちは、そのわずかな時間に二人でいろんなことを思い出していた。
たくさんの記憶を共有してきたから、それがわかる。
ユイは言った。
「でも、忘れないでくださいね。カナタのとなりには……いつだって、私がいますから」
「ユイ…………ん、ありがとね!」
ニッコリと、今度は心からの笑顔を見せてくれるユイ。
そうだ。隣にはいつもユイがいてくれた。
つーか、レベルとかそんな俺にだけ見えるあいまいな数値なんかどうでもいい。こんなものはただの目安に過ぎない。
大切なのは、いつも一緒にいること。
どんな秘湯も彼女と一緒に楽しんで、そして俺たちは強くなってきた。
だから俺たちはここまで来られた。いつも寄り添い合ってきたから。
そしてきっと、これからもみんなで秘湯をめぐり続ける。
世界を救う、その瞬間まで。
『――グオオオオオオオオオオオオオオ…………ッ!』
神殿のさらに最奥。
この秘湯のすぐ先にある巨大な扉の向こうから、竜の絶叫らしき声がビリビリと響いてきた。
さて、そろそろ秘湯を楽しむのは終わりだな。
「よーし……そんじゃみんな! さくっと世界を救いに行きますか!」
俺の言葉に、みんなはそれぞれ笑顔で応えてくれたのだった――!
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