童話「麦の命」

@SyakujiiOusin

第1話

              童話「麦の命」


                             百神井 応身


 あるところで、お百姓さんが麦とトウモロコシを作っていました。

 毎日丹精して育てたので、夏の初め頃には麦の実が実り、夏の終わり頃にはトウモロコシの実も熟れて、種にして蒔けば来年には芽を出して、立派に命をつないでいけるほど丸々とした粒たちでした。その粒たちはお互いに喜びあい、麦の実もトウモロコシの実も、来年を楽しみにしていました。

 農家の近くに、子供たちが元気に通う幼稚園がありました。

 そこの園児たちはみんなで可愛がりながらヒヨコと子ウサギを飼っていました。

 ある日、お百姓さんのところから、麦とトウモロコシと、隣の畑で作った青々としたおいしそうなハクサイが幼稚園にとどけられました。

 園児たちは「ありがとう、ありがとう。」と口々にお百姓さんにお礼を言って、とても喜んで、ヒヨコと子ウサギの餌にしました。

 毎日おなか一杯に餌を食べて、見る見るうちにヒヨコはニワトリに、子ウサギは丸々と太った大きな若ウサギに育ちました。


 園児たちは、毎日幼稚園でニワトリとウサギの世話をするのが日課になっていました。

 ある朝、園児たちが幼稚園に来てニワトリ小屋とウサギ小屋を覗いてみると、そこはもぬけの空となっていました。

 園児たちは口々に園長先生に聞きました。

「ねえ、ニワトリとウサギはどこに行っちゃったの?」

 園長先生は「ニワトリもウサギも別のお仕事ができたの」と答えました。

 その日のお昼ご飯のテーブルに並べられていたのは、ご馳走でした。

 トウモロコシの入ったフカフカのパンと、野菜を添えた鶏肉のから揚げと、ハクサイと肉がたっぷり入ったスープでした。

 お食事の前に、園長先生のお話しがありました。

「これから、みんなで一緒にお昼ご飯をいただきます。みなさんは、いつもご飯を食べ残します。勿体ないことです」

「これからお話しするのは、とっても大事なことですので、良く聞いて下さい」

「どうですか?今日のお昼は美味しそうですね?」

「は~い、とってもおいしそうです。」皆は元気に声をそろえてお返事しました。

 園長先生は、真剣な顔をして話し始めました。

「目の前に並んでいるパンは、お百姓さんが持ってきてくれた麦とトウモロコシから作りました。お肉は、皆さんが飼っていたニワトリとウサギです」

「え~、そんなの可哀そうだよ。食べられないよ」とみんなが叫びました。

 園長先生は手をあげてみんなを静かにさせると、ゆっくりと語りかけました。

「食べ物には、みんな命があります。麦さんにもトウモロコシさんにもハクサイさんにもみんな命がありました。麦さんもトウモロコシさんもハクサイさんも、餌として食べられることになったとき、決心したのです。これからは、ニワトリさんやウサギさんの中で生きていこうと思ったのです。私たちも、お野菜やお肉の命を食べないと生きていかれません。ですからお食事の前には必ず『いただきます』といってご挨拶します。『いただきます』というのは、あなたの命を私の命として頂きますという感謝の挨拶の言葉なのです。いただいた命は大切にしますというお約束でもあるのです」

 園児たちは、泣きながら残さず全部食べました。

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