童話「狐と狸」
@SyakujiiOusin
第1話
童話「狐と狸」
百神井 応身
むかしむかし、山奥の木陰で、狐と狸がある相談をしていました。
「このごろ、平和だった山に人間がやってきて、木を切ったり我々の仲間を弓矢で射たりして、おちおち出歩けない。こちらは人間の邪魔をなるべくしないようにしているのに迷惑な話だ」
「そうだそうだ。こちらの領分に入って来ないようにしなくっちゃならない」
ということで、人里に下りて行って人間を化かして懲らしめることになりました。
狸は、自分が妖怪に化けることは得意ですが、人を化かすのは苦手です。
狐はそれとは反対に、人を化かすのがうまいのだといわれています。
狐が年を経ると体中の毛が金色になり、尻尾が九つに分かれるといいます。これを「こんもうきゅうび(金毛九尾)の狐」と呼びます。こうなった狐は神通力を持ち、何にでも化けることができるのです。
しかし九尾の狐は、人間には悪い事をするのだと、昔から伝わっているのです。
この狐が人里近くまできたとき、真面目そうな若者が歩いてくるのが見えました。
「ようし、この若者をだましてひどいめにあわせてやろう」と狐は思いました。
森から出る前に、若くて美しい女性にばけました。そのうえに、若者の同情を引きやすくするために病気のふりをして、道端にうずくまることにしました。
通りかかった若者が、うんうんうなっている女性に化けた狐に、親切に声をかけました。
「どうしたんですか?どっか具合がわるいのですか?」
「はい、お腹がひどくいたいのです。どこか休める場所はないでしょうか」化けた狐がいいました。
「私の家は少し遠いので、この近くにある長老のところにごあんないしましょう」と親切に言って優しく抱きかかえると、長老の家まで運びました。
人間も長く真面目に努力して年をとると、いろんな知恵が身につきます。
長老は、その女性を一目見るなり、これは狐だとみやぶりました。
「これ狐。正直者の若者をだまして何をしようというんじゃ?」
ばれたと思った狐は「こ~ん」と鳴いて正体を現すと、あっという間に逃げ去りました。
次は狸の番です。
狸が山を下りて、人里との境界線にきたとき、そこでは子供たちが集まって相撲を取っていました。
「ようし、ここでこの子たちをまずおどかしてやろう」と思いました。
狸だって、古だぬきと呼ばれるようになるほど年をとり、経験をつまないと、化けることはできません。
まずは一つ目の入道に化けましたが、子供たちは面白がるだけで驚かないので、次は唐傘のお化けになりました。サービスに大きな赤い舌をベロベロと動かすと、それが面白いと、ますます子供たちはが大喜びしました。
驚くどころか、あんまり子供たちが喜んで笑うので、狸はがっかりして正体を表してしまいました。
子供たちは、面白がって狸に聞きました。
「一体、何しに来たの?」
「人間たちが山を荒らして困るから、おどかして近寄らなくさせようと思ったんだ」
「な~んだそんなことか。でも、人間はおどかしちゃあだめなんだ。ちゃんとわけを話して仲良くするようにしなくては上手くいかないんだよ」
「いいよいいよ、大人たちに言って、山では乱暴なことをしないようにしてもらうから、大人しくこのまま帰りな。まごまごしていて捕まると、狸汁にして食べられちゃうかも知れないよ」
仲良くなった子供たちは親切でした。
狸は、喜んで山に帰っていきました。
それ以後、狸が里におりてくることはありませんでしたが、狸は親切な子供たちに何かお礼をしなくてはと思いました。それで、月夜の晩になると、腹をぽんぽこ鼓のように打って、音楽を届けるようになりました。
童話「狐と狸」 @SyakujiiOusin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます