隣国の船
ジュフア様の船が見たいと王子殿下が言ったからだ。
私も
私も
「ユリアスは船に興味あるのか?」
王子殿下も不思議そうだ。
「隣国の船の
「積み荷か……」
王子殿下は
とりあえず連れてきてくれたので文句はない。
王子殿下には言っていないが、私は国外の船乗りに行商をするのが好きなのである。
そう、私は行商の時に変装をしていた。
だから、油断していた。
ジュフア様の船に乗ると、私の知っている顔がたくさんいたのだ。
もっと言えば、ほとんどが常連客だった。
まあ、今日は変装をしていないから誰にも気づかれる心配はないはずだ。
それがまた……油断だった。
「ジュフア王子お帰りなさい! ……あれ? ユリちゃん? 髪色変えたの? しかも何その
常連客の中でもフレンドリーに隣国の話をしてくれる少年がニコニコしながら私に話しかけてきた。
私が変装を見破られたことに内心
「ユ~リ~ア~ス~」
王子殿下は呆れ顔だ。
「え、え~と……」
私が何を言ったらいいのか
「お前、スパイか!?」
「ジフ、ユリアスはスパイじゃなくて商人だ」
「商人だから……その、後々
「面倒?」
「
友人
「ユリちゃん?」
そこに、変装を見破った少年が私の行商用のあだ名を
「リシュ君、久しぶりだね……あの、なんで私だって気がついたのか聞いてもいいかしら?」
「だってユリちゃん、髪の毛の色変えただけじゃん! 俺らの国では髪の色は季節で変えるやつもいるぐらいで、洋服みたいに変えるのなんて当たり前のことだからさ! 女の子が髪の色変えたぐらいで誰だか
し、知らなかった。
髪の色を洋服感覚で変えるお
髪の毛は痛まないのかしら? むしろ、トリートメントが売れるのでは?
私の
「悪いな、こいつは今俺の連れだ。雑談は後にしてくれ」
「……」
「ユリアス、あからさまに嫌そうな顔をするな」
そんな所有物みたいに言われるのは
そこに隣国船の中でも一番の
「王子帰ってたんで? お帰りなさいませ……おやおや? ユリちゃんじゃねぇ~か! 船に乗ってくるなんてどうした?」
なんてことだ! こんなに私の変装をあばく人がいるなんて。
私は軽く泣きたくなった。
「船長までこの女を知ってるのか?」
ジュフア様の言葉に、船長さんは苦笑いを
「王子は女に興味がないから知らないんすかね? ユリちゃんが売ってくれる商品は品質が良くて、
船長さんの言葉に感動してしまった。
「だがそれだけではスパイだという疑いは、晴れぬ!」
ジュフア様の言い分はもっともだ。
「この女にどんなことを聞かれたか覚えているか?」
「ユリちゃんに聞かれたことなんて、誰に聞かれても
船長さんの自信ありげな物言いにジュフア様は仕方なく納得したようだった。
「それにしてもユリちゃんが男連れだなんて、うちの若いやつらが知ったら海に身投げしちまうぞ」
「なんのことでしょうか?」
「おいおい天然か? うちの若いやつらはユリちゃん
「そ、そうなの? それは、あまり
私が
なんなんだ?
「リシュ、お前! 見込みないな」
「うっせえ! ユリちゃん、そこの人と付き合ってんの?」
私はいまだに私の肩を抱いている王子殿下を見上げた。
「この人とはそういうんじゃないのよ!」
「なら、他に
「………………」
私はしばらく
「私ね。最近、
私の言葉に王子殿下以外の全員が息を
見れば王子殿下もいつもの呆れ顔をしている。
「本当のことですわ」
「本当のことだけどな」
傷心ぶるなとでも言いたいのかもしれないが、文句は受けつけない。
「ルド、本当か?」
「ああ、先週だったか? 婚約破棄されたばかりだな」
ジュフア様が気まずそうな顔をしたのが解った。
まあ、貴族の女性が婚約破棄されるなんて痛手にしかならないと思うからそんな顔もするだろう。
「そ、そうか。お前も大変だったな」
ジュフア様が気まずい中、頑張ってつむぎ出した言葉に、私は
「お気になさらず」
「気にしないわけにはいかないだろ! 女性にとって婚約破棄とは
ジュフア様の
ムッとして王子殿下を
「ジフ、彼女は傷心でもなんでもない。気にするな」
「いや、ルドニーク。女心というやつはガラス細工のように
「否定はしないが、彼女の心はオリハルコン製だから
王子殿下はそう言い切った。
「失礼ですわ。私だって傷ついたりします!」
「君の心の傷はお金が
「……確かに」
私が納得すると王子殿下は大きなため息をついた。
「納得するところじゃないだろ?」
「私の心の傷を
「そうじゃない」
思わず聞こえないほど小さな舌打ちをした私に、息をつく王子殿下。
どうして、王子殿下には聞こえてしまうのだろう?
うっかり
私の舌打ちと王子殿下のため息はワンセットになりつつある気がした。
「ユリアス」
「イベントに参加しないとか
「少しは
きっとこれは舌打ちのことを言っているのだろう。
「………せめて人のいないところでだけにしてくれ」
王子殿下は私にしか聞こえないぐらい小さな声で呟いた。
なんでこの人はこんなにも
私は苦笑いを浮かべた。
「検討いたします」
私の言葉に王子殿下も苦笑いを浮かべた。
あれは信じていない顔だ。
それでも、私と王子殿下の関係が少しだけ近いものになった気がしたのだった。
ジュフア様に船の中を案内してもらえることになった。
………なんと言うか、先ほどからジュフア様が私をチラチラ見ている。
女性
ラオファン国の
そのためジュフア様には私がとても
女性嫌いのはずなのに、私を可哀想に思うなんてジュフア様の人の良さが
「そ、その、なんで婚約破棄なんかになってしまったんだ?」
ジュフア様は気まずそうに言った後に、顔を青くした。
「言いたくないなら言わなくていい!」
気になりすぎて聞いたけど、聞いたらまずい話だと思ったようだ。
「相手の男性に浮気をされ、お前と
さらに青くなるジュフア様が逆に可哀想に見える。
「私にとっては結婚した後に浮気が
「いや、だが」
「ジフ、気にしなくて
「王子
王子殿下にじっとりと
「なんなんですか? 私が婚約破棄に何も思うところがないとでも? 私だって元婚約者様がどんなにアホでも最初は愛そうとは思っていたんですのよ」
「えっ?」
本気で
「君は利益のためにラモールと婚約してたんじゃないのか?」
「一生
「とは? ……それって愛そうとしたけど愛せなかったってことじゃないのか?」
「気づかれてしまいましたか? さすがにあの人アホすぎて……」
王子殿下は物凄いため息をついた。
「なぜ、王子殿下がそんなこと気にするんですか?」
「君のためだと思って婚約破棄の手助けをしたのに、本当は愛していたなんて言われたら
「王子殿下が私に協力してくれたのは自分が助かりたかったからでは?」
「それもあるが、友人の助けになりたいと思って何が悪い?」
王子殿下の正直なところは好感が持てる。
私は思わず笑って言った。
「ご安心くださいませ。王子殿下が協力してくれたお
「……ならいいけどな」
王子殿下が
しばらくすると、大きなブルーの宝石のついたネックレスを持って出てきた。
「これをやる」
「えっ? なぜ?」
「……失礼なことを言ってしまった」
私は苦笑いを浮かべる。
「
「なぜだ? お前は
「はい。強欲ですが、隣国の王子様からのプレゼントを売ることはできませんし、持っているだけでも、
王子殿下がまた、ため息をついていたが無視した。
「……」
それを聞いたジュフア様はどうしたら良いのか解らなくなったのか、フリーズしてしまった。
「ユリアス、
「ジュフア様が思っているようなショックも受けていないのに、それを受け取ったら認めることになるでしょう? それは
ジュフア様が困ったような顔をした。
ちょっと
「ジュフア様、私は小石の
「だが」
「ジュフア様は女性が
私がクスクス笑うとジュフア様の
あ、
「その、なんだ……お前は
「そうですわね……いろいろありますが、ジュフア様が着ている服もですがランフア様とムーラン様がとても
「服か。よし、ついてこい」
ジュフア様は
ジュフア様、いい人だ。
「無自覚タラシか?」
「王子殿下? 何か言いました?」
「君が
「今に始まったことじゃないのでは?」
王子殿下は驚いた顔をした後、
「……まぁな」
王子殿下は、まだ
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