第14話 『シンデレラ』


 あ、こんにちは。

 えっと、今日はダイゴが来れないって言うから、代わりに来ました。

 

 初めまして、ですよね。

 アタシ、ユミって言います。


 ごめんね。

 ダイゴのやつ今、ツチノコを探しに富山まで行ってるの。

 だからアタシが代わりに来ました。


 ……え?

 敬語はいらない?


 あっは。

 そう言ってもらえるとマジ助かるよ。

 アタシ、敬語とかチョー苦手だからさ。


 いやー、でもさ、いつもダイゴの話につき合ってくれてアリガトね。

 なにしろあいつさ、



 『バカ』



 でしょ。


 だからさー、話聞くだけでも大変だと思うの。

 キミは忍耐強いと思うよ、マジでさ。


 それか、よっぽどの変わり者だね。

 アハハ。


 じゃ、早速本題に入ろっか。


 これ、チョー昔の話なんだけど。

 あるところに、シンデレラって女の子がいたワケ。


 この娘には本当のお母さんがいなくてさ。

 義理の母親と二人のお姉さんがいたの。

 

 でさ。

 シンデレラはいつもこの3人にいじめられてたワケ。

 掃除を押し付けられたり、意味なく叩かれたりさ。


 ……ごめん。

 ちょっと昔を思い出しちゃってさ。


 実は私も、お母さんがいないの。

 そのことで、クラスでいじめられたりしたからさ。


 だから、このシンデレラの気持ちがよく分かるの。

 今ならいじめっ子なんかにゃ負けないんだけどさ。


 でさ。

 ある夜、3人はお城で開かれる舞踏会に呼ばれるワケ。

 でも、当然シンデレラはお留守番。

 家で一人、掃除をしていたの。


 そしたらさ。

 ナンカいきなり魔法使いのバーチャンが現れてさ。

 シンデレラをお城に連れて行ってあげるっていうワケ。


 でさ。

 みすぼらしい服をドレスに。

 ぼろぼろの靴をガラスの靴に。

 ネズミとかぼちゃを白馬と豪華な馬車に。

 魔法で変えてくれたの。

 

 素敵。

 とっても素敵だわ。


 アタシも昔ビンボーだったからさ。

 毎日毎日、家で一人で想像してたの。

 私にも、こんな夢みたいな事が起こらないかなあって。


 ……でもさ。

 ガラスの靴はないわよね。

 

 あんまり言いたくないけどさ。

 ダサいし、履きにくいと思うのよ。


 私は魔法で変身できるなら、靴はフェラガモのヒールがいいなー。

 ううん、そんな贅沢は言わないから、ダイアナのパンプスでいいよ。

 でもさ、こないだ行ったイオンのモールにさ、アニエスベーのショップが入ってたの。

 そこでさあ、チョー可愛いブーツがあって――


(以下、好きな靴ブランドの話が30分続く)


 ――だったワケ。

 ほんとさ、目移りしちゃうわよね。

 あーあ、ダイゴ、今度の「出会ってから5年3か月記念」になんか買ってくれないかなー。


 あ、ごめ。

 チョーごめ。

 話がそれちゃったわね。


 でさ。

 シンデレラ、お城に行くワケ。

 そしたらそこに、イケメンの王子様が現れるの。

 

 そしてなんと、王子様はシンデレラに惚れてしまうの!


 ああ、なんて素敵な話なんだろ。

 私もイケメンの王子様に一目ぼれされてみたい!


 え?

 私にはダイゴがいるじゃんって?


 そうなんだけどさー。

 ダイゴって、ホリが深くてカッコイイ顔してると思うんだけど、インド人みたいな顔してんのよね。

 ちょっと白馬の王子様ってタイプじゃないワケ。


 いっつもダッサいリーゼントだしさ。

 言葉使いも悪いし、ありえないほどガニ股だし。


 ……ま、そういうとこも含めて好きになんだけど。


 でさ。

 シンデレラと王子様はフロアで踊るわけ。

 悪い令嬢の3人は「キー!」ってなるんだけど、マジざまあ、よね。


 でもさ。

 そこで、日付が変わる間近、シンデレラは思い出すのよ。


 バーチャンの魔法は12時に切れるって。

 

 シンデレラは急いで逃げ出すわけ。

 ほら、12時を過ぎたらいつものみすぼらしい姿に戻っちゃうからさ。


 で、階段を降りてる時に、ガラスの靴が片方脱げちゃうの。

 取りに戻ろうとするんだけど、もう時間が来ちゃうから、そのまま靴を置いて逃げるのよ。

 王子様はそれをひろってさ、シンデレラを探す手掛かりにするワケ。


 ……ないでしょ。

 いや、これないわよね。


 だってさ、どうしてガラスの靴だけ魔法が解けないのよ!

 他のドレスとか馬車は元に戻ってんのにさ!


 おかしいじゃん!

 アタシ、こういうの我慢できないのよ!

  

 え?

 それを言うならそもそも魔法なんてないんだからって?


 アハハ。

 まあ、そうね。


 けどさ。

 この世界に、魔法はあるよ。


 アタシ、知ってるもん。

 でもね、現代の魔法は、それを本気で信じてる人にしか効かないの。

 きっとね。


 嘘つけって?

 ふふ。

 キミも、ダイゴ見てたらきっといつか分かる日が来るよ。


 でさ。

 結局、王子様がガラスの靴がぴったりのシンデレラを見つけ出して、二人はお城で幸せに暮らしたんだって。


 マジでチョーめでたしめでたしよね。


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