軽自動車とバレヅラ


 こないだ車屋さん(嵐山や奈良公園周辺で見られるああいうののことではなくて、自動車のディーラーのことね)に行ったら、手書きのボードが目に入った。曰く、軽自動車の白ナンバー、うちでもどうぞ、ということであった。軽自動車につけるナンバープレートは、今まで黄色と決まっていた。それが最近、白にしたかったら白にしてもええで、という風に変わったのである。ボードに書いてあった売り文句は、「軽っぽくない!」だった。こんな「ツッコミ待ち」な文言を目にすることが年に何度もあるだろうか? 早速言わせていただくが、軽っぽくないもなにも、見たらわかるでな。軽は軽である。見たらわかる。見ただけで分かる。ナンバープレート云々の問題ではない。だいたい、何のために? 軽なのに軽っぽくなく見られることで得られる利益とは?


 わたしは即座にバレヅラのことを考える。バレヅラ。言わずもがな、バレバレのカツラのことである。かぶってはる!! とすぐ分かってしまう、いや、そんなん、隠してへんし。隠せてへんし。むしろ悪目立ちやし。というアレ。本筋からやや脱線するが、わたしの中でのバレヅラ☆スタアNO.1といえばそれは小倉さんでも神田正輝でもなく数年前に耐震工事の不正で捕まった建築士の姉歯某で、国会での証人喚問の中継をたまたま一緒に見ていたときの兄のコメントがいまだに忘れられない。「責任もヅラも丸かぶり!」


 そんなバレヅラ、傍には文字通りバレているのだからかぶらなくてもよさそうなものなのだが、本人にはそうでもない。気持はわからなくもない。コンプレックスというのはそういうものだと思う。けれども、ハゲ、ヘアレス(©中島龍太郎師)であることは自然現象だが、ヅラ(しかもバレてる)を載せているということは自然ではない。そういえば、わたしの知った人で、一重瞼をそれ専用のテープを使って二重瞼にしていたお姉さんがいたけれども、わたしはそんなんせんでもええんちゃいますか、と何度思ったか知れない。一重で何が悪い。いいじゃないの。第一一重瞼は「尋常」だが、目の上にテープを貼っているという状態はそうでない。事情(≒乙女心)を解さない人から、なんか付いてるよ! と指摘されたとき逆にどうするのか、とわたしは常々心配していた。

 それもこれも自分がヘアレスでなく、また、一重瞼でないからなのかとも思うが(あなたにはわからないのよ! と言われたら沈黙するしかない)、でも、普通にしていればいいのではなかろうか。別に、どや! と鼻高々に誇って威張り散らすことでもないだろうけれども、反対にそこまで卑下することでもないと思う。毛が薄い、あるいはない。それがどうした。それをマイナス要素と捉えない人もたくさんいるはずだ。例えばオーストラリア代表のラグビー選手であるスティーブン・モーアは禿げてるのか望んで剃ってるのかその両方なのか、つるつるのつるっぱげであるが、それはモーアの魅力を毫も損なうものではない。私はとても好きである。モーアの、間違いなく一度、ことによると複数回折れたのであろうゴリっと曲がった鼻は、実にセクシーだ。渡辺健だって、アタマはたいがい薄いのに、ご存知の通りモテモテじゃあないか。考えてもみろ、モーアやケン・ワタナベが帽子のようなヅラをかぶっていたら? そっちの方が嫌やろ!


 別に気にはしないと言う男に出会い、結婚もして、お乳の出がよく子どもが全員ちゃんと育ったことで完全にどうでもよくなったのだが、わたしも長らくドのつく貧乳であることを気に病んできたし、O脚についてはいまだに「うおお、治ってほしい。無理って知ってるけど」とほぼ毎日ため息が出るので、そうした肉体的・外見的なコンプレックスを持つことについては十分理解しているつもりだ。一部の、悦点の低い(©リリー・フランキー)人種を除けば、自分の容姿というものに、ひとはなかなか納得がいかないのだと思う。

 だから、バレヅラ、二重テープ等々についてはつっ込むにもそこまでの「ねえ、なんで?!」という思いはないのである。むしろ、わかるよ、でもね、という気持ちで物申し上げている。無理に隠したりするより、それをよしとする、ないしは気にしないという人々だけを相手にして生きる、という道があるんじゃない? ということだ。


 ただ、軽の白ナンバーだけはな。何やのん、それ。

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