第8話
ミチキが試合に出場している最中、トオルは水族館の土産コーナーに侵入していた。
防犯カメラに写らないよう、死角を取りながら、ある場所へと向かう。
「えーと…… あった!」
手にしたのは、人魚姫の化粧水。
人間が使ってもただの化粧水だが、これを水中に住む生き物にかければ、3分間だけ人間になれるという代物である。
(いくら手足があっても、それが短かったらブレークダンスは無理だ。 苦肉の策だが、使うしかねー)
化粧水を手に取ると、トオルはペンギンブースへと急いだ。
「はあっ、はあっ……」
トオルが息を切らしながら、得点の表記されているディスプレイを見やる。
そこには、PERFECT、の文字。
「エクセレント! 素晴らしいぜ、ミチキ。 まさか満点を出しちまうとはな。 もう、後続のダンスを見る必要は無くなった」
「ま、待ってくださいよ!」
ハットをかぶったゴエモンが、歩み寄る。
「この日のために、マ〇ケル・ジャクソンのスムース・クリミナルを習得したってのに……」
スムース・クリミナルとは、ギャング風の格好をしてダンスを踊る、マ〇ケル・ジャクソンの代表作で、その中の、ゼログラビティという技は誰しも一度は聞いたことがあるだろう。
「俺だって、一夜漬けでフォークソングを練習したんだぞ!」
ティムはなぜかギターを抱えて、ダンスバトルに参加していた。
友恵がはあっ、とため息を吐く。
「おめーら、何も分かってねーな。 これはダンスでも、ラップでも、ギターのバトルでもねーんだよ」
「……?」
みな、キョトンとした表情になる。
友恵がおもむろにミチキに近づく。
そして、手にしていた虫取り網をかぶせた。
「うぐ!?」
「ダンスの踊れるペンギンなんて、高額で取引されると思わねーか? 私、実は海賊の末裔で、飼育員は仮の姿なんだわ」
みな、何が起きたのかさっぱり理解できない。
友恵がミチキを小脇に挟んで外に出ようとした、その時だった。
奥の暗がりから、何者かが現れた。
「……」
タキシード姿に身を包んだ、人間の男が立っている。
男は、口を開いた。
「……全部聞いた。 ここは、通さねーよ」
「その声…… 逃げたのかと思ったぜ。 トオル」
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