胡蝶ヶ夢~チェンジリング~

姫宮未調

夢か現実か

……なんだろう、ふわふわする。

自然と体が起き上がる。

ゆっくりと瞳が開かれた。


目の前に広がるは、陽の光を柔らかく届ける透き通った布。

見渡さずともわかる、広く真っ白なふかふかベッド。



━━目が覚めるとそこは、まるで御伽噺のようなお姫様の部屋で……。



「……姫様、おはようございます」


畏まった綺麗な女性の声が布越しに聞こえた。


「おはよう」


私の口から零れたのは、魅惑的な、愛らしくも妖艶な声。


……あれ? 私はダレ? ここはドコ?


「失礼します。お着替えを」


端整な美人。透き通る肌、プラチナゴールドの柔らかな髪をキッチリ束ねたメイド服の女性が布を開き、現れる。

ゆっくりと突き出す腕。細く、透き通った絹のような滑らかさ。思わず見惚れてしまう。

何も纏っていなかった身体に柔らく、絹のようなドレスを着せられていく。


「お御髪ぐしを……」


メイド服の女性が梳く髪は滑らかで、蜂蜜を溶かしたかのような細い細い錦糸を思わせた。


すべてが幻想的で夢のような……。


◇◇◇◇◇◇◇◇


ガバりと起き上がる。


「……え? 」


頭が追いつかない。夢にしてはやけにリアルで……。


私は……私は……米山葎子よねやまりつこ

平々凡々の独身フリーター!

あれは夢! きっと夢!

浮かれることもない底辺生活してるから夢見ガチなだけ!

よし! 今日も代わり映えしない仕事に行こう!





━━これが私の鎮魂歌の始まりだとも気が付かずに、いつものように仕事へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る