風紀を乱す風紀委員と帰宅しない帰宅部員
成瀬 灯
第1話 「不良な僕たちは正しくないことをする」
風紀委員の
彼女が風紀を乱すのにはワケがある。僕はそれを知っているけど、荻野目さんには言わない。それを言ったら、地雷を踏み抜いて僕らの友情も一気にドカン! だ。
え? なんで荻野目さんみたいな変な女の子が好きなのか、って?
僕は前に荻野目さんに聞いたことがある。
「荻野目さん、なんで金髪じゃなくて緑なの?」
「金髪はさすがにやりすぎかなって。だから黒と金の間で緑!」
ほら、こういう所。僕のハートにドストライク。緑の髪って、全然黒髪と金髪の間じゃないし、緑だからこそ異彩を放ってるのに気づいてないんだ。
『線路は続くよ』を鼻歌交じりに荻野目さんが歌う。校庭に丸とか四角とか、目的のない図形が白線で描かれていく。
僕は体育用具入れのドアの所から荻野目さんを眺める。片手にはブックカバーのされた少女漫画。いつも本物の文庫本も一緒に持ち歩いているからこれが漫画だとバレたことは一度もない。
「なるほどな。壁ドン、顎クイ、決めゼリフ! これがポイントか」
荻野目さんを落とす方法が見つかるのも時間の問題かもしれない。
僕は体育用具入れに向き直り、誰にともなく壁ドンをしてみる。それからエア顎クイ。
「……もう逃げられないぜ、キヨコ」
待った、キヨコ誰!?
僕は少女漫画に視線を落とす。そうか、この漫画のヒロインか、キヨコは。
気を取り直して。
「……もう逃げられないぜ、おぎの――、」
「安達君」
「おわぁっ!!!」
いきなり話しかけられて僕の心臓は一瞬で心肺停止と心肺再開をやってのける。
気がつくと荻野目さんは僕のすぐ後ろ、半径15cm以内に侵入していた。
「そんなにびっくりしなくても良くない?」
僕は聖書――もとい少女漫画を閉じて口を尖らせる荻野目さんに向き直った。
「急に話しかけてきたから驚いてね」
「ふぅん。ていうか、アレ? 安達君は帰宅部なのに帰らないの?」
想定済みの質問に僕は目的が悟られないように冗談で返す。もちろん、目的というのは荻野目さんと一緒にいることだ。
「まぁね。僕は帰宅しない不良帰宅部員だからね」
「ふふふふ、冗談ばっかり〜!」
こう言う笑い方をする所は以前の面影が残っているな、と思う。昔、荻野目さんはどちらかと言うと大人しい方で真面目で、頭脳明晰な女の子だった。ところがある日、頭のネジがスコーン! と抜けたのだ。
「荻野目さんは何してたの?」
「学校一大きなラクガキ」
「風紀委員なのに?」
「私も風紀を正さない不良風紀委員だからね」
いらずらっぽく笑う。
「一緒じゃん」
「じゃあ、私たちのクラスには不良が二人もいるのかぁ。大変だね」
「二人くらいがちょうど良いよ。ベストバランスってやつ」
僕は夕焼け空を見上げる。
もう、夏も終わりか。
季節は秋に差し掛かっていた。
「荻野目さん、僕のことどう思ってる?」
ふいに荻野目さんの心に触れたくなって僕は分かり切った質問を投げ掛けた。荻野目さんは、いつもの笑顔のまま「面白い友達だと思ってるよ」と残酷に告げる。
僕らは友達だ。こんな時、少女漫画のヒーローならなんて言うだろう?
顎クイしながら「じゃあ、今から意識して」とか恥ずかしいセリフをキメ顔で囁いて強引に唇を奪う。
そうだ、そうするだろう。イケメンだから許される所業だ。
僕がやったら犯罪だ。確かに帰宅しない不良帰宅部員だけど、その枠は超えたくない。そんなことをしたら友達の称号すら剥奪しかねないのだから。
「で、安達君は私をどう思ってるの?」
「……もちろん、面白い友達だと思ってるよ」
面白くて、一生懸命で、少し抜けてて、やることなすこと破天荒で、だけど一途で、目が離せない友達だよ、君は。
「一緒じゃん」
ズキンと胸が痛んだ。
嬉しそうに微笑む荻野目さんに僕も笑みを零す。
「まぁね」
手が届かないほど、手を伸ばしたくなるものだと僕は初めて知った。だから今は友達で良い。
いつかきっと、君を振り向かせてみせるよ、荻野目さん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます