アンドロイドと音声データ

「食料も水も、なーんにもないですね」


 男と女ははか隣接りんせつするコンクリートの家の中にいた。天井てんじょうはあちこち崩落ほうらくしていて、鉄筋てっきん何本なんぼんもむき出しになっている。かつてだれかがここにんでいたとおぼしき痕跡こんせきはかすかにのこっていて、家具やいくつかの生活道具の数から二人ふたりんでいたと推測すいそくされた。


「ここまで来て収穫しゅうかく無しか……。食料しょくりょうはあとどれくらいつ?」


 男と女は手分てわけして家の中を捜索したが、目当ての食料は見つからなかったようだった。


 女は指折ゆびおり何かをかぞえはじめる。


「ざっと、あと十日分ですね。もちろん先輩の分を私がいただけば、二十日分ありますけど」

いただくな」


 けらけらと笑う女を横目よこめに、男は深くため息をついた。まいったな、とぽつりとらす。


「次の行き先のあてはあるか?」

「うーん、無いですね。このあたりの都市やまちはあらかた行きくしましたし」

「だよな。……いっそもうあきらめてここで死ぬもありかなぁ」

「私は嫌です。勝手に死んでください。さようなら」

随分ずいぶんだな」


 もう一度男は深くため息をつき、近くにあったコンクリートの残骸ざんがい腰掛こしかけた。コンクリートは予想以上にんやりとしていたようで、男は背筋せすじふるわせた。


「ん?」


 すわったことで視線ががったためか、男は部屋の中央に置かれたつくえ足元あしもとにある何かに気づいた。


「どうしました?」


 立ち上がった男はかがみ、つくえしたにあるそれをつかむ。


「メモリですね」

「だな」


 男の手にある物体は親指の先から第一関節までほどの大きさの、コンピュータの外部メモリだった。

 

「何か記録されているかもしれません。みてみましょう」


 そう言うと女は持っていた荷物にもつろし、弁当箱ほどのサイズである小型こがたコンピュータを取り出した。


「まだうごくのか、それ」

「この前ったまちに電力かろうじて生きていたビルあったじゃないですか。そのときなんとか充電できたので」


 女はメモリに付着ふちゃくしていたほこりを注意深く指ではらい、コンピュータに差し込んだ。


「これだけよごれていたら流石さすがに無理かなぁ。……あ、ひらいた」


 コンピュターの画面に、ディレクトリのまどが展開される。


「音声データ?」


 メモリの中には数分すうふんの音声データが三つ入っていた。データ名は「編集済み 会話記録 一」、「編集済み 会話記録 二」、「編集済み 会話記録 三」となっている。


「会話記録……。会話記録かぁ。どうします? 聞きますか?」


 女はこまったように、となりで画面をのぞき込んでいた男にたずねた。


「もしかしたら有用な情報があるかもしれないし、一応聞くか」

「わかりました。では一つ目から」


 そう言うと女は一つ目の音声データをクリックした。

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